つるちゃんも男泣き。女もつらいよ
翌朝の夜明け前、俺は機体の操縦席に乗り込んでいた。
こまかい事はざっと端折るが、色々とごたごたは沢山あった。
どこから情報が漏れたのか、敵の大群が押し寄せてる事はすぐ知れ渡ったし、みんなかなりのパニックになってた。
俺や鶴のマッサージのおかげで、ポップコーンみたいに跳ねまわっていた年寄りたちは、たぶん避難が素早くできる……と思っていたら、今は都合よくヨロヨロと歩いている。
「いや、さっきまで鉄棒で大車輪とかやってただろっ! なんでそういう時だけ年寄りっぽくなるんだよっ!」
とツッコミを入れた俺だったが、幼女女神の回答は「そろそろ勇者の仮契約が終わるから」だそうだ。
人型重機に乗れる仲間たちも寝込んでいたし、自走砲の砲撃班もボロボロ。
つまりこの避難区でまともに戦えるのは、今現在俺だけというわけだ。
「そろそろ来るか……」
俺は半透明の立体地図をにらむ。
北上して押し寄せるのは、あの巨大すぎる山のようなバケモノ・荒金丸。
さらにはその手下ども、5000を超える大軍勢だ。
「……小さいゴブリンでも5000相手は無茶なのに、一体一体が10メートルクラスのザコ敵?
一体どこがザコなんだよ、難易度設定バグってるクソゲーじゃねえか…!
開発担当者出てこい、マーケティングの甘さを徹夜で文句たれてやる」
本来ならここで「開発者への意見なら、ゲーム好きの私にまかせてほしいですぅ!(鼻息ふんす×99)」とか言いそうな鶴だったが、彼女は女神に引きずられていった。
「大事な決断じゃ、黒鷹1人で決めさせる。お前は一緒に行ってはならぬぞ。ま、いちおう神器の地図だけは使わせてやろう。わらわはこう見えて優しいからの?」
とのことだ。まったくもってふざけている。
世の弁天信仰をしている信者どもに、この悪態をライブカメラで流してやりたい。
お前らが信じてる女神様とやらは、こんな底意地悪い神なんだぞと。
…………そしてその意地悪い幼女女神はこう言ったのだ。
「最後のチャンスをやろう。明日の明け方、この避難区を出て、香川の讃岐平野の大型避難区へ行け。さすれば鶴の婚姻届けにサインせずとも、勇者の本契約としてやる」
「ノォーッ、それだけは絶対にノオオオオッ、ノオーーオオオ~~~ッッッ!!!」と男泣きに泣く鶴を軽々と引きずりつつ、女神は念押しした。
「何度でも言うぞ、何も捨てずに得られると思うな。お前以外にも、大勢のものが家族や知人を失っておる。
だったらお前も今一度、その痛みを噛みしめよ。それが勇者となる最後の試練じゃ。
この避難区を捨てて、お前の知人を見殺しにし、讃岐平野の避難区に来い。
さすればお前は力を得て、その後多くの人々を救える。
例え知人が死んだとて、お前は一生幸せになれるのじゃ」
「……ふざけやがって」
俺は回想を打ち切ると、機体を立ち上がらせ、格納庫の扉を押し開けた。
まだうす暗い運動場へ、俺の機体はふみ出したんだ。