ネームド・ボス
「んもうっ、鳴瀬くんっ、あなたって子は~~っ!!! ほんとにほんとに、どうしてこんなに最高なのかしらっ!!」
一通りかせぎクエストを終えた頃、鶉谷司令……つまりベッドに体を起こした雪菜さんは、病人とは思えないパワフルさで俺を抱きしめた。
もちろんすさまじく柔らかく、かつ弾力がある司令の胸が俺の顔面をおそう。
その感触たるや、このまま昇天してもいいぐらいの天国であり、俺の血圧は一気に500ぐらい跳ね上がる。
全身の血管が破裂しそうだが……ちょっと待て、今死ねば死因は『むね死』とかになるのだろうか?
……いや、それでも構わないっ!
メチャクチャ強い国の王だったのに、死因が新婚初夜の鼻血だったというフン族の王・アッティ●のように笑われてもいいさ。
男には誰に後ろ指をさされても、耐えねばならない時があるのだ……!
「こんっっの腐れデカ乳がぁぁぁあっっ!!! よくも何度も何度も私の黒鷹を誘惑したわね!!! もぐわ、今日という今日は確実にその乳もいでくれるわあああっ!!!」
鶴は憤怒の形相で太刀を抜き、何度もぶんぶん素振りしている。
「い、いやヒメ子、お前だって大きい方だろって……むぐっ!?」
何とか止めようとする俺を、雪菜さんは喋らせてくれない。
「すばらしすぎるわ鳴瀬くんっ、どうやったのか知らないけど、おかげでとうぶん食料も物資も足りるし! これでこの避難区も安泰ね!」
ムニムニ押し付けながら褒めてくれるので、言葉と感触の同時多重攻撃だ。
もはや俺の理性は崩壊寸前だったが、そこで幼女女神がジト目で言う。
「まったく、この乳好きめが。それはそうと、仮契約はあと2日じゃからな。それが終わればどうするか、本当に考えておるのか?」
「そ、それは……(ムニムニ)」
「あれだけ派手に近場の敵を狩りまくったのじゃ。この後どうなるかぐらい、お前でも分かるじゃろう」
「こ、このあと……?(ムニムニムニのムニッ!)」
「今ごろ敵も大慌てじゃろう。そろそろ本腰入れて攻めて来るぞ」
「ほ、本腰を……?(ムニィッ! モニュウッ! ムニムギュモギュウウウウッッッッ……バインッ!?)」
いや無理だ。まったく頭が働かない。
こういう時の男はIQ2ぐらいになってるとよく言うが、今の俺にそれを否定する事はできない。
まあそうでなけりゃ人類なんてとっくに絶滅してるだろうけど……と思ったその時だった。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
とんでもない地響きに、司令も俺も、太刀を振り回していた鶴も動きを止めた。
グウウオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!
続いてすさまじい雄たけびが聞こえる。
はるか遠くで、とんでもない巨大なモンスターが怒り狂っているようだ。
女神は急に静かな表情になって言う。
「ほれ、聞こえたか? 荒金丸だ」
「荒金丸……?」
「そう。世界を襲う邪神どものしもべのうち、すさまじい力を持つ霊魂。それが肉体を得たものじゃ」
幼女女神は珍しく冷たいまなざしでこちらを見すえる。
「ありていに言えば、超絶レベルの名を持つ敵。魔王軍の幹部クラスじゃ。今の仮契約の力なぞで、あれを倒せると思うなよ?」
ようやく胸から解放された俺は、なんとか頭が働き始めた。
要するに、今まで雑魚狩りをしまくっていた俺たちの動きに、敵の幹部が気づいたのだ。
自分達の天敵たる勇者がいると知って、本気になって攻めてきたのだ。