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ベッドルームで話しましょう

 太刀を振り回して暴れる鶴、隙あらばワンモアセッと駆けだそうとする司令にたまりかね、俺は別室へと場所を移した。


 病人たる鶉谷(うずらたに)司令のために、旧校長室の隣に休憩用のベッドが据えられていたからだ。


 鶴は再びごんぶとの縄で縛り上げ、さっきの部屋に転がしてあるし、しばらくは大人しくしてくれるだろう。


「よっと。これでじっとしてて下さいね」


 無理やりベッドに寝かされ、司令はしかられた子供のように俺に抗議の目を向ける。


「……つまらないわ。そんな病人扱いしなくていいのに。私だってあれよ、まだまだ若いもんには負けないわよ?」


「いいから寝て下さい。外人さんも心配してるでしょ」


 一緒にエクササイズをしていた外人達は、ハアイ、またお見舞いに来るわね、などと言いつつ退散していくが、スキンヘッドの教官だけは腕組みして壁にもたれていた。


 ……いや、あんたは帰らないのかよ。


 雪菜さん、もとい司令は弱々しく微笑んで言う。


「鳴瀬くん……それに兄さん」


「お兄さんなんですか!!?」


 驚く俺をよそに、幼女女神がニヤニヤ笑った。


「なるほどのう、ようやく合点がいったぞ。その女がおるから、わらわの誘いを断ったわけじゃの? 結局は乳か、まったくスケベな奴じゃ」


「ちっちち違うっ、そんなんじゃないっ! 雪菜さんは、鶉谷司令はすごい人なんだ! 俺らが小さい頃から人型重機のパイロットで、俺ら孤児(みなしご)を守ってきてくれたんだ。

 もう戦えないし、時々……いやしょっちゅうとんちんかんな事してるけど、こんな場末の避難区にも見捨てずに残ってくれてる。

 だから俺らぐらいの歳の奴は、みんなこの人を尊敬してるんだ……!」


「ふむ。それはなかなかの人物じゃのう。若いのに大したものじゃ」


 弁天様はあごに手を当ててうんうん頷く。


「……だ、だから俺は他の所には行けない。たとえ勇者の力をもらっても、この人を守れなかったら意味が無いから」


「恩人への義理か。良い心がけじゃ」


 弁天様はそこでベッドの上に飛び乗った。


 司令は意外と霊感が強いのか、「あら、あなたどこから来たの?」などと話しかけているが、女神はムシして司令の司令たる部位を鷲掴みにした。


「あああっ!? ちょ、ちょっと何なの?」


 司令は真っ赤になって慌てるが、女神は特に気にしない。


「いいからちょっと大人しくしておれ」


「大人しくって、ちょっと!?」


「ふうむ、やはり邪気が集積しておるな。これでは薬も効かぬじゃろう」


 ひとしきり司令をいらいたおすと、女神は満足げに俺に言った。


「10年近くもバケモノどもと戦ってきたのじゃろう。戦った相手の呪いが、臓腑(ぞうふ)のあちこちにからみついておるわ」


「えっ……それってあなたなら治せるって事ですか……!?」


 恐る恐るたずねる俺に、弁天様は首を振った。


「出来ると言いたいところじゃが、きっぱり言おう、無理じゃ。わらわは嘘は言わんからの。心の臓まで侵されておるし、無理に呪いをひっぺがせば死ぬ。かといって放っておいても半年もたぬわ」


「そんな……」


 俺は戸惑ったが、そこで思い出した。


「そっそうだ、勇者の契約したら、チートで治療とか……!」


「それも駄目じゃ。お前に与えるのは主に戦う力。そういうのは『勇者の管轄外』じゃな」


「…………だ、だったら、俺も勇者にはなれない」


 何か深刻そうに話してるけど全然平気よ、兄さんいきましょミュージックスタート、などと駆けだそうとする司令を押さえつつ、俺は女神にそう答えた。


「司令は命の恩人だし、この人をおいて行けないから」


「そうか。まあそういう事情なら無理じいすまい。鶴もわらわと同意見じゃろう」


「え? いやあいつは隣の部屋でしばられてるのでは」


「神器があるじゃろ。上を見よ」


「上って……? うっ、うわあああああっっっ!!!???」


 みっしりと天井を埋め尽くす無数の目に気付き、俺は全身鳥肌が立った。


 あの時マッピングをした鈴達の目が、今は堤防にはりつくフジツボのように隙間なくひしめいている。


 そして俺の眼前に警告文が表示された。


『新着未読メッセージ・2万3452件』


 ざっと数件見てみると、


『至急! 黒鷹、何やってるの!?』『あんな乳のどこがいいの!?』『もいでやるあの乳絶対もいでやる』『もう許せない地の果てまでも追い詰めて黒鷹を私だけのものにしてそれから…』などと物騒な文面が踊っている。


 少しでもマシな内容はないかと探してみたが、メッセージは直近に近付くほど過激になり、俺はそっとそれらを閉じた。


「わらわと鶴は神と聖者じゃ。(よこしま)な思いで断るならともかく、恩人への義を貫くのであれば、それ以上無理じいはせぬわ」


「い、いや、とてもそんな穏やかな文面ではないんですけど…」


「とにかく、契約の期限はあと1週間じゃ。きっぱりすっぱり断りおったし、本来ならすぐにでも勇者の力をはく奪するのじゃが、事情が事情じゃからの。特別に仮契約だけはそのままにしておいてやる」


 幼女女神はそう言って琵琶を鳴らした。


「それまでにじっくり考えよ。恩人とともにここで死ぬか、勇者になって日本を守り、ウハウハな余生を送るか。2つに1つ、お前の決断をわらわも鶴も尊重しよう」


 とても尊重してくれなさそうな脅迫メールをよそに、女神はそう言ってニヤリと笑ったのだ。

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