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乳と刀。巨乳許すまじ。

「ぜえ、はあ、も、もう暴れるなよ。とにかくそこでじっとしてろ」


 俺はなんとか鶴を連れ戻し、女神にもらった霊体用ロープで縛り上げた。


 鶴は「ガルルル、あの女子ども許すまじ」などと猛りながら、なおも保健室に戻ろうと荒ぶっている。


 今にもロープが千切れそうだ。


「ったく、この行動力とパワーのどこが陰キャなんだよ。時々なんかのキャラと混じってるだろ」


「ふみゅう……よく分からないんですけど、例えるなら別世界にいるもう1人の私から、無尽蔵のスタミナが送られてくる感じでしょうか」


「着払いで送り返せっ」


 俺はほとんどのエネルギーを使い果たし、ようやく旧校長室の引き戸を開けた。


 ここにはこの基地の指揮官たる、鶉谷(うずらたに)雪菜(ゆきな)少佐がいるのだが……



 ズンチャチャ、ズンチャ! ズンチャチャ、ズンチャ!


 いきなり鳴り響く大音量に、俺はその場に立ち尽くした。


 室内にはタンクトップに短パンをはいた健康的な外国人男女が集まり、中央のアメリカ人の教官が早口でまくしたてている。


 ワンモアセット! ワンモアセッ! 甘ったれるな! オーケーグッジョブ!


 こ、これは。かつて大流行した海外式ダイエットエクササイズにそっくりだが……


 教官の隣で笑顔を振りまく女性は、本来病人であるはずの鶉谷(うずらたに)少佐である。


「あら鳴瀬くん、お帰りなさい!」


 はじける笑顔でエクササイズを繰り返す少佐は、やはりタンクトップにショートパンツ。


 十代の俺には刺激の強すぎる巨大な何かが、ワンアクションごとにバルンバルン揺れている。


 ……ああ、極楽ってこういう事を言うんだろう。


 俺は一瞬安らかな気持ちになりかけたが、よく考えれば少佐は病人なのだ。


「ゆ、雪菜さん! じゃなかった、鶉谷少佐! 頼むから座っててください! 今そんなに動いたら……」


「なーに言ってるの鳴瀬くん、そんなに病人扱いしないで! 昨日からほんと調子がいいのよ、もうほんとに空を飛べちゃうぐらいにブゲラゴフウッ!?」


 雪菜さんは派手に吐血し、きりきり舞いして倒れた。


 鬼教官を含め外人さん達は心配していたが、俺は丁重にお礼を言ってお引き取り願った。


 いつの間にか軍用ジャケットとタイトスカートに戻った少佐を、俺はなんとか執務机に座らせる。


「……ごめんなさい。鳴瀬くん達に心配かけたくなくて。元気なとこ見せたかったの」


「いや、余計に心配事が増えますから。少佐は重病人なんで、本来なら机に座るのも駄目なんですけど」


「そこは私の中の坂本龍馬が働けと言ってるのよ。いくら人手不足とは言え、あなた達みたいな子供が戦ってるんだもの。私もまだまだやれるわ! ここでまさかのフェニックスチャレンジッ! いくわよみんな、ワンモアセッ!」


 雪菜さんは再び俺の手を振り切って踊り出した。


 外人さん達は「ほんとに大丈夫なのか」といった感じで遠慮がちに参加したが、少佐が再び大吐血したので、額に手を当ててオウノウ、オーマイグッネス、を連呼している。


「……ごめんねえ、もういけるかと思ったのよ」


「さっきの今で何がどうなればいけるんですか」


 しゅんとする雪菜さんに、本当に反省しているのか、と不安になったが、とにかく再び椅子に座らせる。


 だがそこで、背後から凄まじい怒声が聞こえた。


「こっの……腐れ乳がぁああっっっ!!!!!」


 振り返ると、いつの間にかロープを引きちぎった鶴が、般若の形相で太刀を二刀流していた。


「いつの世も男をまどわす邪悪な乳めっ、まさか500年を経て黒鷹をかっさらうとは!」


「さらわれてねえよ! 何もとられてないから!」


「いいえ黒鷹、奴は大変なものを盗んでいったのよ。あなたの……」


 背後にガンコそうな警部を浮かべる鶴を、俺は慌ててさえぎった。


「いいかげん黙れっ! 著作権を何だと思ってるんだお前はっ!」


「今日だけ無礼講女子っ、爆誕ッッ!!!」


「今日だけでも駄目なんだよ! 頼むから余計なもめ事を起こすな!」


 俺はグロッキーになりながらツッコミを続けた。


 雪菜さんは隙あらばもっかい踊ろうとしてるし、ツッコミ役が足りな過ぎる…!

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