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第8話 提案

「あれ、あのゲーム機、昔からあそこにあったよね?」

 ある程度クッキーとコーヒーを堪能した頃、琴美がふとそんなことを言った。

 琴美が指差す先には、昔琴美とよく一緒にやったゲーム機があった。

「ああ、そういえばゲーム機とかテレビとかは、あんまり昔から配置変わってないかもな」

 まれに模様替えをすることはあるものの、テレビはテーブルから見やすい位置に置きたいし、テレビ線をさす場所も決まっているので、配置は変わりにくい。

 それで琴美からしたら、昔から変わらないものとして目に入ったのだろう。

「せっかくだし、久々にやってみるか?」

 そう言ってみると、琴美はニヤッとした笑みを浮かべて、

「おっ、それじゃ、久々にアタシの超絶ドライブテクを披露しちゃいますか」

 なんて挑発してくる。

「いやいや、琴美に負けたときはだいたいアイテムの引きが悪いときだから。普通にやったら俺が勝つね」

「負け惜しみを。ま、走ってみればわかるから」

「臨むところだ」

 そう言って、昔と同じレースゲームを二人で始めた。

「ちょっ、悠珠! ショートカットはズルだって!」

「そんなルールないだろ。これがテクニックってやつよ」

 俺が勝ってるときは、そんなことを言ったり。

「はいサンダー」

「ちょっ、琴美! お前、よりにもよってショトカのポイントで撃つのはやり過ぎだって!」

「いやいや、アイテムってのは引きだけじゃなくて、どの場面で使うかも大事なのだよ悠珠クン。こんな風にねっ」

「あっ! スターで弾き飛ばされた! このっ!」

 琴美が勝ってるときは、そんなやりとりをしたり。

 俺たちは、まるで子供の頃に戻ったように、ゲームを楽しんだ。


「琴美ちゃん、せっかくだから晩ごはんもウチで食べていきなさいな」

 ゲームで数戦終えたところで、母さんが琴美にそんな声をかけた。

「いいんですか? アタシ、椿(つば)()さんの料理大好きなんで、嬉しいです!」

「じゃあ決まり! 響子(きょうこ)さんに連絡しておくわね」

 響子さんというのは琴美の母親だ。

 母さんと響子さんは、俺と琴美が距離を置くようになってからもママ友として関係が続いており、よく一緒に出掛けたりしている。

 だから、こういう話も、融通が利きやすい。

「悠珠も琴美ちゃんみたいに、いつも素直に褒めてくれればいいのに」

「……男子高校生にしては、伝えてるほうだろ」

 実際、母さんは料理上手だ。

 俺も美味いと思っている。感謝もしてる。

 ただ母さんは自信家で、自分で先に食べて自分で「美味しい!」と先に言うもんだから、俺としてはタイミングが掴めないのだ。

「デキる男になるには褒め上手じゃなきゃ。どうせ悠珠はファッションとかで勝負できるわけじゃないでしょ」

「その発言が逆に褒め上手じゃないじゃん……」

 むしろ言い過ぎだろ。事実陳列罪だろ。

 人知れず俺が落ち込んでいると。


「そうだわ、ファッションといえば、琴美ちゃんに教えてもらうのがいいわ」


 母さんが突然、突拍子もないことを言い出した。


「今度、二人で買い物に行って、琴美ちゃんに服をコーディネートしてもらってきなさいよ。琴美ちゃんのオススメなら間違いないし、予算だって用意してあげるだけの価値があるわ」

 うんうん、と母さんは一人で納得してしまっている。

 いやいや、琴美の都合とかもあるだろ……。


「椿妃さん公認、悠珠着せ替え人形化プロジェクト、うむ、ありかも」


 ……なんと、琴美も乗っかってきてしまった。

 こうなるとパワーバランスが一気に偏ってしまい、俺に発言の機会すら生まれないまま、夕食を三人で食べ終わるまで、緒方悠珠改造計画が母さんと琴美の間で語られ続けたのだった。


******


 夕食を食べ終わると雨も止み、琴美も帰ることとなった。

 時間的に外は暗くなってしまったので、俺が琴美の家まで送ることにした。

「母さん、勝手に話を決めちゃったけど、本当によかったのか?」

 俺は再度、琴美の気持ちを確認しておく。

 母さんの手前、断りにくくて話を合わせてしまった可能性もある。

 押し付けがましくなり、琴美の負担になっていたら嫌だったのだ。

「うん、アタシ、普通に楽しみだよ。……それとも、悠珠は、イヤだった?」

 こう言う琴美の表情は、からかいではなく、本当に心配したようなものだった。

 元々、小学生のときに琴美と疎遠になったのは、周囲に(はや)し立てられるのが辛かったからだ。

 だから、今回も俺がそういう不安を抱えていないか、気になったのだろう。

「俺は大丈夫だよ。あのときのように小馬鹿にするほど、学校の皆も子供じゃないだろうし、既に学校で俺と琴美が一緒にいるところを見てる人も多いし。変なことにはならないだろ」

 心配してくれたことは嬉しいが、今自分に不安な気持ちはなかった。

 むしろ、ちょっと当日が楽しみなくらいだ。

「そっか……そっか!」

 俺の返答に琴美は、笑顔で答えてくれた。

 それは、思わず見惚れてしまいそうな綺麗さだった。

「今日はありがとね! まずは、また明日学校で!」

 そうしているうちに琴美の家に着き、玄関の前で一度こちらに振り向いて明るくそう言うと、家の中へと入っていったのだった。


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