第7話 変わったもの、変わらないもの
風呂から上がると、琴美が脱衣場にドライヤーを戻してくれていたので、俺は髪を乾かしてからリビングに向かった。
リビングでの琴美は、既に亜麻色の髪を乾かし終えていて、ほぼほぼいつものポニテ状態に戻っていた。
それでも風呂上がりからそんなに時間が経っていないからか、まだ少し頬は赤かった。
琴美が座っていた椅子から、テーブルをはさんだ向かいの席には母さんが座っていて、二人の手元に飲み物が置かれているのを見ると、俺が来るまでに二人で少し話をしていたらしい。
「あら悠珠、コーヒーでいいかしら?」
「ああ、うん、ありがと」
そう言ってキッチンに向かった母さんと入れ替わりで、琴美とは対面にあたる椅子に座る。
琴美の奥に見える窓には、未だ雨が強く打ちつけていた。
「止まねえなあ……」
「そうだね」
「とりあえず、ある程度雨弱まるまで、うちでくつろいでいきなよ」
「椿妃さんにも、さっきそう言われた。お言葉に甘えさせてもらいます」
そう言って琴美はコーヒーに手を付ける。
「琴美、コーヒー飲めるようになったんだな」
昔、一緒に遊んでいた頃の琴美は、苦いものは苦手だった。
いや、あの時は小学生だったし、当たり前なんだけれども。
「そうそう、アタシも大人になったってことよ」
琴美は得意気な顔をしてそう語る。
「……そうだな、綺麗になったよ」
素直に浮かんだ言葉を何気なく発する。
その瞬間、琴美の表情が固まる。
……これもしかしてとんでもないこと言ってる? とワンクッションおいて気づいた。
「あ、いや、その、ヘンな意味じゃなくて! えっと、ほんと、ただふと思っただけというか、えっと、ええと……」
「はい、コーヒー淹れたわよ。あとクッキーあったから、琴美ちゃんもどうぞ」
しどろもどろになっていた俺に助け舟を出すかのように、母さんがコーヒーと、貰い物のちょっといいクッキーを持って戻ってくる。
「わあ、美味しそうですね! ありがとうございます!」
琴美の目がクッキーに移ったことで、俺は一息つくことができた。
琴美は遠慮なく、クッキーを一つ手に取るとそれを口に運んだ。
「おいし〜い!」
本当に美味しそうに食べる琴美の笑顔は無邪気で、子供の頃から変わらない可愛らしいものだった。
……そうだよな、琴美は子供の頃から可愛かったよな。
今は美人でクラスの人気者なんだし、当然、子供の頃から容姿が優れていた。
……よく、仲良くしてくれてたな。
そんなネガティブな考えを飲み込むように、俺もクッキーを口の中に入れた。




