第57話 ホワイトデー②
そうして迎えた、ホワイトデー当日。
俺は、ホワイトデーのお返しがしたいと伝えて、自分の家に琴美を迎えていた。
琴美がバレンタインに俺にしてくれたように、琴美にはダイニングテーブルに座っていてもらって、俺がキッチンで紅茶を淹れて、冷蔵庫から目的のバームクーヘンを取り出して「よし」と一人つぶやいた後にお盆に乗せて、テーブルまで持っていった。
琴美の前に配膳するときに、こんなに緊張するとは思わなかった。
好きな人に自分の料理を食べてもらうことって、こんなにドキドキするんだな。
「えっ、これバームクーヘン!? 作ったの!? すごい!」
そう褒めてくれた琴美にも、なんとか笑顔を向けるくらいしかできないくらい緊張していて。
改めて、何度も手料理を食べさせてもらった琴美のことを尊敬した。
「さあ、どうぞ」
そう言って、琴美に食べるよう促す。
できるだけ緊張が琴美にまでは伝わらないようにしたいと思っていたのだけれど、食べる前に優しい微笑みを俺の方に琴美が向けてくれたから、きっと顔に緊張が出ていたんだろうな。
そして、フォークで一口分琴美が切り分けたバームクーヘンが、ゆっくりと琴美の口の中に入っていく。
「……ん、美味しい!」
そう答えてくれた琴美の笑顔は、これまで何度も見た、見惚れた、心からその食べ物が美味しいと思ったときの笑顔で。
その笑顔が、心から俺を安心させてくれて。
上手く作れたものを、琴美にあげることができてよかったと、俺は安堵した。
そのときふと、俺が一瞬冷蔵庫の方に目線をやっていたことを、琴美が見ていたことを気づかずに。




