第53話 バレンタイン①
年が明けて、あっという間に月まで変わって、2月に入ったころ。
俺と琴美と江藤さんは、いつものように昼食を囲んでいた。
「今年のバレンタインは、琴美は手作りするの?」
その時、そんな問いかけを、江藤さんが琴美に発した。
突然の問いに琴美はほんのり顔を赤らめながらも、
「う、うん。その、つもり、だけど……」
どうやら、手作りチョコを俺にプレゼントしてくれるつもりらしい。
「やっぱり! 最近琴美、お料理頑張ってるもんね!」
江藤さんは琴美に明るくそう返す。
確かに、琴美は去年から、時々母さんに料理を教わりに来る日があった。
それに、段々と琴美のお弁当のおかずが手作りのものが増えてきた。
……それと、実は最近琴美のお弁当の中身交換をするときに、最近琴美の手作りのものをもらうことも増えてきた。
その時の琴美の手料理は毎回美味しくて、「美味しいよ、ありがとう」とこの1年だけで何回言ったかわからない。
つまり、琴美の料理の腕は着実に成長してきているということだ。
それは、琴美のこれまでの努力の成果だ。
「でも、あんまり頑張りすぎて、無理しちゃ駄目だよ?」
だからこそあえて、俺はそういう言葉を告げる。
努力の継続力と集中力の高さは、琴美の大きな長所だ。
だけど、それ故に時に琴美は無理をしてしまうこともある。
もちろん琴美の手作り料理は嬉しいけど、そのために琴美が無理をして体調が悪くなってしまっては、俺としては悲しい。
ましてやお菓子作りというのは、レシピに忠実に作業しないと失敗しやすく、大変なものだ。
決して「溶かして固めるだけ」なんて簡単そうに言われる内容ではないのだ。
「琴美からもらえる、そのことだけで、俺は嬉しいんだから」
「うん、わかってる」
どうやらそのことは、琴美にもちゃんと伝わっているようだ。
「俺にとっては、琴美の身体が一番だから」
俺がそう一言添えると、琴美がビクンと反応して、目を合わせてくれなくなった。
バツが悪いと思ったのだろうか?
そう思った俺は、別に怒ってるわけじゃないと伝えるために、琴美の頭をそっと撫でた。
相変わらず目は合わせてくれなかったが、嫌がっている風には見えなかったので、しばらく撫でるのを続けていた。
そうこうしているうちに、昼休み終了のチャイムがなって、俺たちは自分の席に戻っていくことになったのだった。
「琴美、あげちゃうの? プレゼントはア・タ・シ、しちゃうの?」
「す、するわけないでしょ! バカ!」
そんなひそひそ話が琴美と江藤さんの間でされていたことには、俺は全く気付かなかった。




