第51話 和装で会う二人
さすがに三が日は人混みが多すぎるけれども、着物で初詣に行っても周囲から浮かないようにするにはそれなりに正月に近い日に行く必要がある。
ということで初詣の日は1月初週の土曜日に定め、俺は新しく買った袴を着て、琴美の家を訪ねていた。
夏祭りの時と同じように、着物姿の琴美をエスコートするためだ。
ピンポーン。
呼び鈴を鳴らすと、程なくして琴美の家の扉が開いた。
「悠珠くん、いらっしゃい。琴美の着付けが終わるまで、上がって待っててくれる?」
そう響子さんに促され、リビングへと入っていく。
そこには、もう一人、男性の姿があった。
スラッとした体型に、優しそうな目をした、落ち着きのある男性。
琴美の父親、甲斐竜司さんだった。
俺は写真等では顔を見たことはあったが、実際に会うのは子どもの頃を含めてもほとんど記憶にない。
「やあ、悠珠くん、明けましておめでとう」
しかし、竜司さんの方は俺の顔を覚えているようだった。
「あ、明けましておめでとうございます!」
慌てて俺も、挨拶を返す。
「琴美のこと、よろしく頼むよ」
「は、はい! もちろんです!」
そう返したら、少しクスっと笑っていた。
何か変なことを言っただろうか?
なんて、思っていたとき。
閉まっていた襖が、スッと開けられた。
その先に立っていたのは、琴美。
美しい和服で着飾った、恋人の姿だった。
浴衣以外でいう女性の着物というとまずは振袖がイメージされるが、あれは成人式等の特別な場面で着られることが多く、今回琴美が着ているものは違うという。
小紋と呼ばれる、オシャレ着にあたるもので、その名の通り、小さな模様が各所に散りばめられた着物だ。
今回琴美が着ているのは、薄いピンクの着物に赤い牡丹の花が散りばめられ、明るい紫のグラデーションの入った帯でまとめられていた。
華やかな印象が琴美の美しい肌や髪によく似合っていて、とても美しいと思った。
しかし、琴美の表情を見てみると、なんだか驚いたような顔をしている。
「ゆ、悠珠も、着物姿なの!?」
「え、う、うん。あれ? 響子さんから聞いてない?」
「聞いてないよ! ちょっとお母さん!?」
琴美が響子さんの方に話を振ると、あからさまにそっぽを向いていた。
どうやらサプライズの確信犯だったらしい。
俺の和服姿をサプライズにしてもなあ、と俺は思うのだが、琴美は「ふ、不意打ちはズルいってぇ……」なんてつぶやいているし、なんだかわからないがサプライズはどうやら成功しているらしい。
いつまでもこうしていても仕方ない、俺は話を進めるべく、
「琴美、本当に似合ってる。こんなきれいな恋人の姿が見られて、嬉しいよ」
そう、セオリー通り服装への誉め言葉で、そしてもちろん心から思ったことを伝えることから始める。
それを聞いた琴美は「ほんと、もう……」とつぶやいていたのだが、
「ありがとう、その、悠珠も、カッコいい、よ?」
そんな言葉を、顔を赤らめた表情で、上目遣いに伝えてきた。
……不意打ちがズルいのはどっちだよ。




