第50話 年末の日々
それからしばらくして、とある休日。
俺と母さんは、二人で男物の和服店に来ていた。
お店に来てわかったことは、一言に和服といっても、実は色々と種類があるということだった。
お店に陳列された服の数に俺が驚いているうちに、
「……あっ、この色いいわねぇ。……あっ、これなんか悠珠のスタイルに合いそう!」
なんて母さんは次々に服を手に取って、俺にあてがっていた。
俺はすっかり、着せ替え人形状態だ。
やがて、5点ほどに服を絞った母さんは、それぞれ試着して見せるよう俺に言ってきた。
なんだか俺より気合が入ってるなあと感じつつ、一つずつ試着して、母さんに見せていく。
やがて、5種類全部着終わった後に、母さんが聞いてきた。
「さて、悠珠はどれがいいと思う?」
まさかここまで全部見せて、何も言わずに俺に尋ねてくるとは思わず、つい動揺してしまう。
「……これかな」
答えは、意外とすぐに出た。
俺が選んだのは、抹茶色の着物にネイビーブルーの羽織を着て、ベージュ色の帯でまとめたもの。
「へぇ、即答ね。どうして?」
「琴美と買い物に行って、俺の服を買うときに、琴美はだいたいインナーとアウターは色のコントラストのついたものをよく選ぶかな、と思って」
だから、琴美はそういう組み合わせがいいかなと思ったのだ。
「じゃあ、それを買いましょう」
母さんはあっさりと俺の提案に乗り、会計まで服を持っていった。
「えっと、母さんの意見とかはないの?」
「私の意見より琴美ちゃんの意見、でしょ?」
それは、その通りだ。
俺のファッションは、全て琴美のためにあるんだから。
俺と母さんはそれ以上は何も言わず、会計を終えたのだった。
*******
それから時はあっという間に進んで、琴美とクリスマスで温かな日を過ごし、それも終わって、大晦日。
毎年恒例の歌番組が終わって、各地のお寺の中継をテレビが始めた頃、俺のスマホの着信音が鳴った。
琴美からだ。
「もしもし」
「もしもし、ごめんね急に。寝る前とかだったりしない?」
「大丈夫、まだ起きてたよ」
「よかった。……年越しはね、悠珠の声を聞きながら過ごしたい、って思って」
「そう……。そう思ってもらえて、俺も嬉しいよ」
やはり、琴美と話していると、心が温かな気持ちになる。
思えば、今年は琴美との思い出ばかりだったなあ。
次の年も、琴美といろんなことをして過ごせればいいなと、切に願う。
そうこうしているうちに、午前0時を迎えたようだった。
「明けましておめでとう、悠珠」
「明けましておめでとう、琴美。今年もよろしく」
「こちらこそ!」
琴美の明るい声で始まった新年は、きっと素敵なものになるだろう。
そんな思いを、俺は感じていたのだった。




