第43話 悠珠の誕生日②
休日、アタシは結局、具体的なアイデアもないまま、デパートのメンズフロアをうろうろしていた。
財布であったり、ハンカチであったり、そういったいわゆるプレゼントの定番みたいなものは、店頭にたくさんある。
でも、そういったものを悠珠にあげたとして、それが悠珠にとって特別なものになるかと言われると、アタシはあまり自信がなかった。
そういう身の回りのものについては、悠珠は基本的に興味が薄いと思う。
あとは、悠珠の服なんかはよく二人で買いに行くけど、最終的に「アタシが悠珠に着てもらいたい服」を買う形になっている。
そういう、「アタシが考えた、悠珠に似合いそうなもの」をあげるよりも、もっと悠珠に「特別」に思ってもらえるものを、アタシはあげたい。
だって、アタシはアタシの誕生日に悠珠にもらったプレゼントを、とても特別なものと感じていたから。
そう思って、もう少しいろいろなエリアを回る。
悠珠の好きそうなもの、とか?
悠珠はまあ、ゲームとかは結構好きだけど、あんまりグッズを収集するタイプではない。
漫画の美少女キャラクターで好きな人とか……は、なぜか考えたくないので浮かんですぐ頭から排除した。
やっぱりグッズ系ではないものかなあ、と感じてまたメンズフロアに戻ろうとする。
すると、とあるエリアに並んでいたものが目に留まった。
「緒方くんの好きなもの? ……そりゃあ、琴美じゃない?」
そんな都由の適当な言葉も、なんだか頭の中でパチッとピースがハマった感覚がした。
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そうして迎えた、悠珠の誕生日。
アタシは、夕方に悠珠をアタシの家に招待していた。
お母さんは今日帰りが夜になると言っていたから、ある程度の時間、悠珠とアタシで二人っきり。
そんな二人だけの、誕生日会。
アタシの時みたいに、みんなでワイワイも、もちろんいいんだけど、こういう二人だけで過ごす時間も、なんかいいなって思った。
ピンポーン。
予定より10分くらい早めに、悠珠が来た。
「はーい!」
アタシは料理の準備をしていた手を一旦止めて、悠珠を迎えに行く。
ガチャッ。
「いらっしゃい」
悠珠がこの家に来るのは珍しいことではないので、慣れた感じで悠珠を迎え入れる。
……しかし、悠珠の方は、なんだかちょっと固まって、アタシにすぐにはついてこなかった。
「どうかした?」
アタシが首をかしげていると、悠珠はなんだか恥ずかしそうにしながら、
「いや、その……琴美のエプロン姿って、なんか、こう、いいなって……」
そんなことを言ってくれた。
アタシは料理中でもあったことから、エプロン姿で悠珠を迎えたのだ。
「悠珠、こういうの好きなんだ?」
思わず顔がニヤけるのを感じながら、からかうように言う。
「ええと、まあ、そう、かな?」
なんだか歯切れが悪い感じに帰ってきたけど、好評なことはいいことだ。
アタシはちょっと上機嫌で、悠珠の今日の姿を改めて見る。
以前アタシと一緒に買ったスキニーパンツとインナーを中心に、今日はちょっと冷え気味なので厚めのパーカーを合わせている。
髪型も、春に初めて美容院に行って以降、いつもよく整えられている。
「悠珠のほうも、今日のためにファッションを一生懸命考えてくれた感じが伝わって、とってもいいと思うよ」
そう笑顔で伝えると、悠珠はまた恥ずかしそうにしていた。
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さて、さっきまで作っていた料理は、今日の誕生日会のためのもの。
これまでの花嫁修ぎょ……じゃなかった、料理の勉強の成果を、悠珠に見せてあげたいと思っていた。
悠珠も、アタシの料理をよく美味しそうに食べてくれるし。
悠珠は嘘をついているときって、すごく顔に出るから、「本当に喜んでくれてるな」ってすごく感じられて、作ったほうも嬉しくなる。
そんな反応の良さに乗せられたこともあって、今日はビーフシチューを作っていた。
もう残っていたのは最後の仕上げくらいだったので、すぐに終わったことから、悠珠をダイニングテーブルまでエスコートして、すぐにご飯の盛り付けをする。
煮込み時間は結構長かったけど、悠珠に食べてもらうシチュエーションを思い浮かべながらだったからか、その時間も苦にならなかった。
味見もバッチリ、のはず。
でも、まあ、ちょっとだけ緊張はするかな。
そんな気持ちで盛り付けたお皿を、悠珠の前に配膳する。
「すごい……これ全部琴美が作ったの!?」
「うん、まあね」
「もう、そのことがすごく嬉しいよ、ありがとう」
そう言って笑顔を向けてくれることが、アタシも嬉しい。
「どういたしまして、ふふっ」
「では、いただきます」
礼儀正しい一礼をした後、悠珠の口にビーフシチューが運ばれる。
「……美味しい!」
悠珠はそんな言葉をくれた。
いつもそうだけど、悠珠はこういった言葉を実感込めてアタシにくれる。
その目が、声色が、表情が、これが心からの言葉だと伝えてくれる。
アタシは悠珠のそういうところが、本当に好きだ。
そうした気持ちで食べた自分のビーフシチューは、なんだか味見の時よりも、美味しく感じた。




