第42話 悠珠の誕生日①
アタシ、甲斐琴美が、恋人の緒方悠珠と恋人同士になってから、もうすぐ半年になろうとしていた頃。
アタシは、とあることで、頭を悩ませていた。
2学期が始まってしばらく経って、文化祭も終わり、中間試験も無事乗り切った時期。
多くの人にとっては、様々な悩みが解消された時期だろうと思うが、アタシにとっては次が一番悩ましい。
その日は、11月23日。
アタシの恋人、緒方悠珠の、誕生日だった。
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悠珠の誕生日をお祝いするのは、それこそ子供の頃以来、7年ぶりになる。
その頃は、友達同士でプレゼント交換する概念もなく、だいたいどちらかの家で、二人でケーキを食べていた。
だけど、今回は、それだけではいけない。
なぜなら、この間、アタシの誕生日には、悠珠はたくさん趣向を凝らして対応してくれたから。
普段使いできて可愛いものを、というアタシのことを考えてくれたプレゼントも、恋人として特別なものを、というブレスレットのプレゼントも、本当にアタシは泣きそうなくらい嬉しかったのだ。
だから、悠珠にも同じくらい、誕生日には喜んでほしい。
だけど、悠珠ってあんまり物欲ないんだよねぇ。
だから、悠珠が欲しいものと考えても、なかなかこれといったものが思いつかないでいたのだった。
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「緒方くんの好きなもの? ……そりゃあ、琴美じゃない?」
一人で悩んでいても仕方ない、と思って親友の江藤都由に相談してみたものの、回答はこんなものだ。
「ちょっと、真面目に考えてよね」
「と、いってもねぇ……。緒方くんの趣味は、琴美の知ってるもの以上のことは知らないし。『アタシがプレゼントです!』って言うのが、一番喜ぶんじゃない?」
「えっ、なっ、何言ってるの!?」
都由の突拍子もない発言に、アタシは顔が熱くなる。
「うーん、その反応だと、二人、実はぴゅあぴゅあだね? それじゃあ、なかなか難しいかもね」
ぴゅ、ぴゅあぴゅあって……。
ぴゅあぴゅあかはともかく、アタシたちはその、そういうことはまだしていない。
アタシの方から、一回、悠珠に向かってキスしたことがあるくらいだ。
あれもアタシが我慢できなくなって、って感じだったし……。
「だいたい、そういうの悠珠が求めてるかなんて、わからないじゃない」
「求めてるでしょ、彼氏なら」
何を言っているんだというような反応をされてしまった。
……そう、なのかなあ?
「まあ、それはともかく、琴美の想いが乗ったものが、一番いいと思うよ」
「そ、そうだよね」
それが何なのかを考えるのが、一番難しいんだけどね……。




