第38話 文化祭デート
午後に入り、俺と琴美は接客のシフトが終わり、それぞれ衣装から制服に着替えた。
ここからは自由行動、この後は文化祭を二人で回ると決めていた。
「さて、どこに行こうか」
「もちろん、まずはご飯でしょ! もうお腹ペコペコだよ!」
琴美らしい提案に俺も頷き、まずは手ごろな食べ物屋さんを探す。
「あっ、お好み焼き屋さんがあるね!」
ちょうど屋台設営のお好み焼きを出し物にしている部活を見つけた。
結構な賑わいのようで、俺たちは列に並び、程なくして順番が回ってくる。
「あれ、石川くんじゃん」
屋台でせっせとお好み焼きを焼いていたのは、夏休みに俺たちと一緒に海に行った、琴美の友人である野村莉愛さんの彼氏である石川柊くんだった。
少し日焼けした肌に少し高い身長、茶髪で整った顔立ちで爽やかな印象をもたせる。
「ああ、甲斐さん、緒方くん、いらっしゃい。二人分でいいかな?」
「う、うん、それで」
石川くんはこのように察しが良く、話をスムーズに進めてくれるので、話していて助かることも多い。
「なに、甲斐さんが来たって!? おまけしとけ、おまけ!」
後ろから他の部員たちが、琴美の噂を聞きつけてワイワイと盛り上がっており、石川くんは苦笑する。
「まあ、陸上部って結構ガツガツした人も多くって。大目に見てやってくれるかな」
どうやらお好み焼き屋は陸上部の出し物で、石川くんはそのメンバーだったようだった。
俺と琴美も苦笑いで返しながら、石川くんの用意してくれたお好み焼きを受け取るのだった。
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食べ物を調達できたので、どこか食べられる場所はないかと探していく。
中学までの頃は、俺は一人でいられる場所をよく探していたから、穴場の場所をよく知っていたのだけれど、今は一人でいる必要もなくなって、そういう場所は高校では知らない。
ある意味では幸せなことだと、改めて琴美に感謝しながら、学校をうろうろしていく。
裏庭の方までやってくると、設営された店舗数も少なくなってきたことから、多少スペースがあるようだった。
ベンチは埋まっているようだけど、花壇の周りにある大きめの石垣になら、座るスペースがありそうだ。
「ええと、そうだ、座るところにハンカチとか、敷く?」
女性に不安定な位置で座らせるときは、汚れないようにハンカチとか敷くといいと前に聞いたことがある。
あ、でもこのハンカチ、既に今日使っちゃったなあ……。
バツの悪そうな顔をしてると、琴美がクスクスと笑う。
「大丈夫大丈夫、自分のがあるから」
と、自分のポーチから綺麗なハンカチを取り出して、そこに琴美がちょこんと座った。
またかっこ悪いところ、見せちゃったかなあ。
そう落ち込み気味に隣に座ると、隣の琴美が、
「ほんと、可愛いんだから……」
何やら小さく呟いたようだったが、よく聞こえなかった。
「何か言った?」
「ううん、何にも」
そう答える琴美はなんだか楽しそうだったから、まあいいかと、俺が運んでいた二人分のお好み焼きの内、ひとパックと割り箸をセットで琴美に手渡した。




