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第37話 文化祭スタート

 その後も、文化祭準備は内装の装飾も、販売物の選定もスムーズに進み、当日には、文化祭の出し物としては遜色ない状態となっていた。

 入口なんかには、本当の洋館のような、三角屋根のついた門の装飾がされていて、なかなか本格的に見えると思う。

 テーブルなんかは教室の机を二つくっつけただけなのだけど、そこに純白のテーブルクロスをかけるだけで意外と様になっている。

 各テーブルにはメニュー表が立てられるようにして置かれている。

 そしてメニュー表の裏には、メイド服や執事服の成り立ちや、当時主流だったアッサムスタイルの紅茶についての説明が書かれている。

 まあ、アッサムティーといっても、現代でも普通に飲めるものだから、お店で出すのは普通にパック式のものにお湯を注いでいるだけだったりするのだけど。

 それに合いそうな市販のクッキーを数個皿に乗せてセットで出すのが、この喫茶店の基本メニューだ。


「さあ、いよいよ当日、目指すは今回の文化祭のクラス部門人気投票1位! みんな頑張ろう!」

 実行委員の東浜さんの呼びかけに、クラスのみんなも「おー!」と応じていく。

 団結力があって、いい出し物になるような気がしている。

 いままでこういうのは関わってこなかったけど、こういう感じならいいな、なんてちょっと思った。

 俺も琴美も一緒に午前中のシフトとなっていたので、スタートのこの雰囲気に加われていた。

「頑張ろうね、悠珠」

 琴美がそう声をかけてくれて、俺は素直に頷いた。


*******


 ウチのクラスには、早い時間から多くの客が詰め掛けていた。

 学校単位で人気のある琴美が、メイド服で接客をしているという、その評判は文化祭前から広まっていたようで、琴美のメイド服姿を見たいという人が男女問わずたくさんいたようだ。

 琴美同様、接客担当となった俺は、常に注文を取りに行ったり、商品を給仕したり、特定の客が教室に長時間いようとしているときには回転率を上げるため、飲食が終わった人には移動を促したり、なかなか目の回るような忙しさだった。

 でも。

 その中でも、一番人気の琴美の忙しさは大変なものだっただろう。

 俺も、客が明らかに琴美に向けて呼ぶ声をあげた際に、代わりに対応したりとか、できるだけのフォローはしようとしていたけど、どこまでできただろうか?

 俺に直接言う人はいなかったけど、人によっては琴美を名指しで接客担当にしてもらうよう頼んでいる人の声も、ちらほらと聞こえてきていた。みんな断ってくれているようだけれど。

 

 そんな中、ある一組の客が店を訪れた。

「悠珠、琴美ちゃん、来たわよ~」

「琴美、悠珠くん、よろしくね」

 それは、母さんと、琴美のお母さんの響子さんの二人組だった。

 間がいいのか悪いのか、そのタイミングでは俺と琴美がどちらも接客対応できる状況だった。

「いやあ、琴美ちゃん本当に似合ってるわね!」

「あ、ありがとうございます」

 にこにこ顔で琴美を褒める母さん。どうやらすっかり楽しんでいる感じだ。

 でも身内だからってずっと店の前で話をされてはたまらない。

 ……むしろ身内が自分たちの話をしているのは、一番恥ずかしいし。

「お客様、席の方までお願いいたします」

 俺は速やかに大人しく席に座ってもらうべく促す。

 そして紅茶とクッキーの基本セットの注文を取り、裏方のスタッフに伝える。

 その時に、裏方の方にいた江藤さんに捕まった。

「今の、緒方くんと琴美のお母さん?」

「ええと、まあ」

「なるほど、もう家族ぐるみの付き合いなのね」

 そう言って微笑みを向けられる。

「も、もうっていうか、俺たちが幼いころから、あの二人は仲良かったから」

「つまり外堀から埋められていった、と」

「言い方! もう……」

「まあまあ、お互いの家族が仲悪いよりは、良いほうがなにかと助かるでしょ」

「それは、そうだけど……」

 夏休みとか、なにかと二人ともに背中を押してもらった自覚はある。

 俺と話す間、ずっとにこにこしていた江藤さんにタジタジになりながら、俺は注文の商品が出来上がったのを見つけて、逃げるように接客に戻っていったのだった。


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