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第34話 文化祭の出し物

 今日は、授業の最後の時間がホームルームだった。

 そして、2学期のホームルームの話題といえば。

「さて、それでは今年の文化祭の、出し物を決めたいと思います!」

 そう、文化祭の話題だった。

 文化祭実行委員に選ばれた東浜さんが、黒板の前に立って、意見を集める。

「はい! 喫茶店はどう?」

 どこからともなくそんな声が上がった。

「いいね、どうせなら、可愛い衣装とか着たい!」

「じゃあさ、じゃあさ、コスプレ喫茶とかは?」

 女子たちがワイワイと意見を挙げているうちに、そんな声が出ると、今度は男子たちもざわめき出した。

「甲斐さんのメイド服……」

「そりゃあ、見てえよなあ……」

 そんな声が聞こえてきはじめる。

 ウチのクラスは美人な女子が多いけれども、その中でも琴美の容姿は評価が高く、ちょっとアイドルじみた人気にもなっていた。

 だから、可愛い衣装を着るとなったら、「もしも琴美が着たなら」という想像をする人も、少なくないのだろう。

 琴美が、もしもメイド服を着たら、それはきっと、似合うことだろう。

 でも、その一方で。

 琴美が、例えば一般的に想像されるメイド喫茶のような、際どい服を着せられて見せ物のようにされるのは、正直、いい気はしない。

 そういう方向に話が進んだらイヤだなあ、と思っていたら。


「緒方くんは、コスプレ喫茶について、どう思う?」


 突然、東浜さんが俺に話を振ってきた。


「えっ、な、なんで……」

「そりゃあ、なんか意見ありそうだなー、と思って。琴美について」

 東浜さんは俺の思っていたことを的確についてきた。

 俺、そんなにわかりやすいかなあ……。

 このまま何も言わないわけにもいかず、ひとまず立ち上がる。

 クラスのみんなの視線が、俺に集まる。

 ……やっぱり、慣れないなあ、こういうの。

 でも、今回は、きちんと言わないと。


 琴美を、守るためなんだから。


「やっぱり、自分の恋人が、際どい格好をして、見せ物みたいになるのが出し物の中心になるのは、嫌だよ、もちろん。そ、それに、あんまり際どい格好は、学校側からもNGを出されるだろうし」


 まずは、琴美のために必要なことを、理由込みで、はっきりと言う。

 そうすると、やっぱりクラスから残念そうな雰囲気が伝わってくる。

 でも、俺は別にクラスの意見と戦おうとしているわけじゃない。

 琴美のためにも、自分のためにも、そのことをちゃんと言わないと。


「だから、際どい格好じゃなくて、合理的な理由がある衣装だったら、いいんじゃないかな」


 その言葉で、クラスの反応が変わった。

 俺は、緊張しながらも、クラスの話の中で考えていたことを、一つずつ、話していく。


「例えばその、メイド服だったら、19世紀後半ごろに、実際にヨーロッパで着られていたような、こう、コスプレ的な短いスカートのなんちゃってメイド服じゃなくて、当時の服を再現した、そう、クラシカルメイド服、というか。スカートの丈の長いやつで。お店のデザインも、当時の洋館をイメージしたような、例えばレンガ調模様のシートを壁に貼ったりとかして。そうすれば、歴史に対する学習面の意義も伝えられて、文化祭の出し物として、認められやすくなるかなって。あと、男子も当時の執事の燕尾服を着たりとかすると、女子への押し付け的な感じじゃなくなって、いいんじゃないかな、と……」


 一気に長々と喋ってしまったが、東浜さんはうんうんと頷いて聞いてくれた。


「という、旦那さんの意見ですが、琴美はどう思った?」

 今度は東浜さんは琴美に話を振る。

「だ、旦那さんって……。その、いいと、思うよ。悠珠が、私のことをよく考えてくれたんだな、って、思えたから」

 琴美は顔を少し赤らめながら、控えめがちに言った。

「うんうん、仲良きことはいいことだね。他に意見がある人いるかな?」

「賛成」

(しゅう)くんの燕尾服姿……。いいかも……」

「うんうん、()()も相変わらずで良さそうだね。ということで、ウチのクラスの出し物は、緒方案をベースにした、19世紀後半風メイド執事喫茶ということで。みんな、ヨロシク!」

 最後は、東浜さんが綺麗に締めてくれて。


(き、緊張したあ……)

 俺はプツンと糸が切れたように机に倒れ込みながら、ようやく一息つけたのだった。


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