第4話 とある帰り道
そんなこんなで、それから数週間が過ぎた。
去年までは時間が経つのはなぜこんなに遅いのだろうと考えていたのだが、ぼっちではないというだけで気の重さが違うのだろう、気づけばもう月末という感じだ。
部活動などを頑張っていて、いわゆる「青春している」人たちはきっと、もっと強くそう感じていることだろう。
最初は大変だと思っていた電車通学にもだいぶ慣れてきた。
朝はさすがに窮屈さを感じるが、帰りは帰宅部であることでラッシュの時間帯を避けることができていることもあり、気楽に帰路につけている。
そろそろ家の最寄り駅かあ、なんて思って、今まで見ていたスマホをしまい顔を上げると、ポツ、ポツと電車の窓に水滴が付き始めた。
「雨かあ……」
天気予報は確か曇りだったはずだが、そういえば「ところによって、にわか雨が降る所もあるでしょう」なんて言っていた気がする。
俺は元々ツキがない方だと自分で思っているので、念のため折り畳み傘を鞄に入れていたが、正解だったようだ。
電車が到着し、改札を抜け、さて傘を出そうとしたとき、見慣れた人影を見つけた。
「はぁ……」
ため息をつく亜麻色ポニテの少女に、俺は声をかける。
「琴美、どうした?」
琴美は声をかけられたことに驚いたようだったが、俺の顔を見ると、
「なんだ、悠珠かあ」
といつもの調子に戻る。なんだとは少し失礼じゃないか? 別にいいけど。
どうした、と聞こうとして、琴美の手元に傘がないことに気づく。
「ひょっとして、傘忘れたのか?」
「あはは……だって、今日は天気予報曇りマークじゃなかった?」
「確かにマークはそうだったが、にわか雨が降る可能性もあると言っていたぞ」
「何それひっかけじゃん! ずるい!」
ひっかけかはともかく、まあ最近そういうこと多いよなと琴美には同情する。
……しかし、雨、強くなってきたな。傘を差さずに琴美の家まで、となるとかなりきつそうだ。
「よければ、この傘、使うか?」
「えっ?」
「琴美の家の方が俺の家より遠いし、俺より琴美の方が傘必要だろう」
「じゃあ悠珠はどうするのさ」
「まあ、走って帰っても男子だし何とかなるだろ」
「ダメだよ! 風邪ひいちゃうかもしれないでしょ!」
「だとしても、琴美が風邪ひくよりはいいから」
そう言って、傘を琴美に押し付けようとしたとき。
「じゃ、じゃあ、さ、一緒に入る、っていうのはどう?」
琴美は少し上目遣いにこちらを見ながら、そんなことを言ったのだった。