第30話 琴美の誕生日①
今年の夏休み、琴美と再び同じクラスになって、琴美と恋人同士になって迎えた夏休みは、本当に色々なことがあった。
琴美と一緒に勉強を兼ねた家デートをしたり、琴美と一緒に夏祭りに行ったり、琴美と一緒に海に行ったり。
そんな充実した夏休みを過ごし、学校の課題も終了の目途がついた、お盆明け。
もうほとんど夏休みのイベントもやり尽くしたと、みんなそう思うかもしれないけど、俺にとってはまだ一番大きなイベントが、一つだけ残っていた。
その日は、8月23日。
俺の恋人である、甲斐琴美の誕生日だ。
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琴美と恋人同士になって初めての琴美の誕生日である。
当然、琴美が喜んでもらえる、素敵なプレゼントを渡したい。
俺は母さんに頼んで、今年もらって貯金していたお年玉を引き出してもらい、それを軍資金にしてデパートを回っていた。
俺が普段立ち寄らないような化粧品売り場も、男性一人が回ると周囲から浮くのを承知で見ていく。
ネットで調べた感じだと、リップクリームや、化粧水といった、消耗品的な化粧品関係は、無難に喜ばれることが多いらしい。
普段使いできて、いくつあっても困らないからということだそうだ。
そんな理由で、俺は化粧品売り場を、店員に話しかけられないように周囲に気を配りながら(ああいうのはどうも苦手だ)、うろうろと歩いていた。
化粧品なんて俺が見ても何もわからないかも、という不安が最初あったのだけれど、よく見ると化粧品売り場では意外と、いろいろなキャラクターとコラボしたアイテムが複数あることに気がついた。
琴美はゲームなんかもよく一緒にやるし、琴美の好きなゲームキャラで飾られたアイテムだったら、目で見ても楽しいし喜んでくれるかもしれない。
一方で……。
デパート内では色々な種類のお店が複合して入っている関係上、化粧品売り場からは他のものを販売している店も見える。
その中でも……、ついついチラチラと目に入ってきてしまうのは、アクセサリーコーナー、つまり指輪やネックレスといったジュエリーが販売されているお店だった。
一応、こう、彼氏として、彼女にアクセサリーをプレゼントするというシーンに少し憧れはあった。
一方で、こういったものは好みが分かれる関係上、相手に気に入られないものを買ってしまったら、本人にとっては嬉しくない、送る側の独りよがりなプレゼントになってしまうのではないかという不安も、俺の中で大きくあった。
それでも、俺は「見るだけなら」と、つい店内に入ってしまう。
入ったはいいが、中の商品を見ても、どれがどのようなものなのか全くわからない。
金色がギラギラしているものは、なんだか見せつけているようでイヤだなと思ったくらいで、意外なものが実は値段が高かったりするし、なかなかどれが誰に似合うのかというイメージもついていなかった。
装飾品についてどんなものが琴美の好みであるのかも、全く聞いたことがない。
「デキる彼氏はこういうことを事前にさりげなく聞いておくんだろうなあ」と想像して自分にガッカリしてしまうのだが、今から好みを直接琴美に聞くなんてこともできない。
誕生日プレゼントというものは、何をもらうかわからないドキドキ感も重要だろう。
やっぱり、変に背伸びせず、無難なものを贈るのがいいかな……。
そう考えて、別の売り場に移動しようとしたとき。
「あっ」
一つの商品が、目に留まった。




