第29話 海⑤
午後からも、散々遊んで、帰り道。
今はもうみんなからも分かれて、最寄り駅が一緒な俺と琴美の二人、手を繋いで歩いていた。
もうすぐ家に着いてしまうのが、なんだか名残惜しい。
行きは「それっぽいから」って集合場所に現地集合だったのに、帰りは数分でも一緒にいたいなんて、なんだか可笑しいけれど、正直な気持ちだ。
それでも、精一杯引き延ばしても、琴美を家まで送るまでが限界で。
「今日は楽しかったよ」
「アタシも」
そんな言葉が出るということは、もうすぐ別れの時間というわけで。
最後に、何を話そうか。
そんなことを考えていると。
「次に悠珠がメイクするときは、アタシと二人っきりのときがいいな」
琴美が、そんな可愛いことを言ってくれた。
「わかった」
恋人が見せてくれた独占欲に、ニヤけそうになるのを堪えながら答える。
「確か、悠珠がメイクしてきたときは、アタシが悠珠に何してもいいんだったよね」
「いや、違うから!」
さっきまでの可愛さはなんだったのか……。
でも、こうして琴美に振り回されるのも、なんだかんだ大好きで。
「それじゃあ、またね!」
そう言って琴美が家に入っていったのを見送ったそばから、俺は次に琴美に会うのはいつかなと考え始めているのだった。




