第28話 海④
その後、みんなでビーチボールを打ち合ったり、海の水を掛け合ったり、波と戯れるようにして泳いだり。
そんな形でみんなで遊んでいると、気づけば時刻は昼頃になり、程よい疲れとともに、お腹も空いてきた。
「そろそろお昼にしよっか」
そんな東浜さんの号令により、みんなで昼食をとることとした。
海水浴場というと、海の家の和風な建物などを想像していたが、ここではテラスのような場所でビーチパラソルの立ったキレイなテーブルが無数に並んでいて、デパートのイートインスペースのような形式がとられていた。
最近だとこういう場所もお洒落になっているんだなあと感心しつつ、けっこうスペースが埋まっているから、空き座席を探すのも大変そうだなと思った。
「ウチら女性陣で席を探しとくから、男性陣で飲み物と食べ物それぞれ買ってきてくれる?」
てきぱきと指示を出す東浜さん。
「えっと、希望とかある?」
「んー、何あるかわかんないけど、焼きそばとたこ焼きならあるっしょ。それ半々くらいでいいよ」
「わ、わかった」
続いて、石川くんが、
「じゃあ、緒方は食べ物の列並んで、俺は飲み物の列並ぶことにしようか」
と、これもサラリと決断してくれた。
ここでは、注文はカウンターで行って、食べ物のカウンターと飲み物のカウンターが分かれているらしい。
言われた通り俺は食べ物を買う列に向かう。
後ろでは石川くんがスラスラと飲み物の希望を聞いて回っているようだった。
*******
無事買い物を終えて、俺は食べ物一式が入ったビニール袋を持って、琴美たちの席を探す。
そんなときだった。
「ねえねえ、お兄さん」
水着姿の女性二人組に、俺は声をかけられた。
「ちょっと聞きたいんですけど……」
なんだろうか、道に迷ったのかな?
最初、俺はそんなことを思った。
ところが、その女性たちはここで目を細めて、
「どこか男女で遊べる楽しい場所、知らない?」
そんなことを言ってきた。
最初、女性たちが言っている意味がわからなかったが、
「よければ、ワタシたちと一緒に遊びましょうよ」
女性たちは、そんな言葉を続けてきた。
マズい、これはいわゆる、その、逆ナンってやつだ!
「えっ、えっ、いやその、人を待たせていますので……」
そう言って、食べ物を入れた袋を証明のようにして見せて、なんとか切り抜けようとするも、
「じゃあそのお友達も、一緒に行きましょう」
女性たちが引く様子はない。
どうやら、俺のたどたどしい態度も相まって、一緒に来てる人も男性だと思われているようだ。
「ねっ、いいでしょう?」
そんな事を言って、女性の一人が腕に絡みついてきた。
結果、その女性の豊満な胸が腕に当たる感触を覚える。
ま、マズい、どうしたらわかってもらえるんだ……。
そんなとき、身体ごとグイッと後方に強く引っ張られる感覚があった。
その勢いに、腕を絡めた女性も手を離す。
いったい、何が起こったんだ……?
動揺して横を向くと、そこに琴美の姿があった。
気づけば、俺は琴美の腕の中に抱かれているような状態にいることがわかった。
「彼、アタシのなんで」
今まで聞いたなかで一番冷たく鋭い、琴美の声だった。
その言葉を聞くと、「お、お相手いらっしゃったんですね〜、そ、それでは〜」と女性たちはすごすごと去っていった。
「あ、ありがとう……」
俺は歩きながらそう琴美に伝えるが、琴美の表情は険しいまま。
「ナンパ避けがナンパされてどうすんの」
「ごめん……」
俺としては謝るほかない。
……いや、これは伝えておかないと。
「助けてくれて、ありがとう。琴美、かっこよかったよ。また好きになった」
「…………バカ」
ようやく目線の厳しさが、少し和らいだような気がしたところで、無事東浜さんたちと合流できたのだった。




