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第26話 海②

 その日の集合場所は、学校の最寄り駅の改札内だった。

 そこが一番集まりやすいということで、そこからみんな電車に乗って海まで行くというプランだ。

 俺は集合時間の5分前に到着したのだが、すでに他のメンバー全員が揃っていた。

「ごめん、時間ギリギリになっちゃって」

 俺は急ぎ、グループの輪に向けて駆け出す。

 すると。

「いや、それはいいんだけど……緒方くん、キメてきたねえ」

 驚いた顔をした東浜さんに、そんな言葉をかけられた。


 そう、俺が集合時間ギリギリになってしまった理由は、慣れないメイクをして手間取ってしまったからだった。

 慣れないメイクをしてきた理由は、ちょっとでもナンパ避けになるように、できるだけ見た目をちゃんとしようと思ったからだった。

 ナンパ避けとして呼ばれたのだけれど、果たして普段の俺が行ったところで本当にナンパ避けになるのだろうか?

「そんな冴えない奴より、オレたちと遊ぼうぜ!」

 ナンパをするぐらいの人間だ、そのくらいの図々しさがあってもおかしくはない。

 そんな人たちから琴美たちを守るためには、できることはちゃんとしたい。

 俺が工夫しても限界はあるだろうが、手は抜きたくないなと思ったのだ。

 そこで俺は海に行くとき用のメイクについて調べ、日焼け止めを兼ねた化粧下地と、海でも落ちにくいファンデーションといった対策があると知り、母さんにも協力してもらいながら、できるだけ身なりを整えてきたのだ。

 髪はどうしてもワックスだと落ちてしまうということなので、事前に前行った美容院で、「海に行っても変にならないような髪型ってできますか?」と要望を出してカットしてもらってきた。

 これでできることは全部やった、と思う。


 そういうわけで多少は普段の俺とは違う格好になってるとは思う。

 みんなが見た反応としても、驚いたような顔が多いので、それなりに効果は出ているのだろう。

 そのことにホッとしていると、琴美が一人、少し睨むような顔をしているのに気がついた。

 どうしたのかな? と疑問に思っていると、琴美は無言のまま俺の方に近づいてくると、そのまま俺の腕に抱きついてきた。

「こ、琴美!?」

 俺が驚くのにもかまわず、ギュッと腕に抱きついたまま、今度はみんながいる方を睨みつけた。

「いや、琴美、いくら緒方くんがカッコよくなったからって、みんな琴美から盗ろうなんて思ってないって」

 東浜さんがそう言って苦笑いを浮かべているが、琴美の方を見ると今度は俺の方を睨んでくる。

 どうやら、しばらく腕を離すつもりはないらしい。

 ということで、この体勢のまま、目的の電車に乗るためのホームに向かうことになったのだった。


*******


 電車を待つ間、他のメンバーとも話をする。

 その中でも、やはり目立つのは、自分と同じ男性のメンバーだ。

「やあ、お互い話すのは初めてかな? 俺は石川(いしかわ)(しゅう)。今日はよろしく」

 その男性メンバーである石川くんは、俺に爽やかに声をかけてくれた。

 身長は俺より5センチくらい高い彼は、ほんのり茶色がかった髪色に、ちょっと日焼けした肌が、健康的な雰囲気を醸し出している。

 整った顔立ちから垢抜けた印象を受けるが、優しそうな目元周りから、なんというか、「この人は話しかけやすいな」といった感覚を受けて、コミュ力低めな俺としては「助かったな」という風なことを思っていた。

「よ、よろしく。俺は、緒方悠珠、です」

 それでも話し方は、どうしてもたどたどしくなってしまうのだけど。

「失礼ながら、名前だけは聞いていたよ。やっぱり、目立つからね」

「そ、そう、か」

 まあ、新入生代表で、学校内でも話題な美人である琴美と、毎日一緒に登校している姿は、やっぱり目立っているようだった。

「そうそう、琴美たちは、ラブラブだもんねー」

 そう言って石川くんの後ろから現れたのは、野村(のむら)莉愛(りあ)さん。

「私と緒方くんは、この間みんなと一緒にショッピングモール言ったよね! こちらの柊は、私の彼氏になりまーす!」

 野村さんが弾むような声で紹介してくれた。

 野村さんは石川くんより少し明るめの茶色の髪をウェーブかけていて、二人並ぶとなんだかちょうどよい色合いで、なんとなくだけど、お似合いだなと感じた。

「なんか、この二組のカップルを見ていると、ウチも恋人欲しくなってくるね」

 東浜さんがそうポツリとつぶやく。

「ふふ、そうね」

 それに同調するのは、もう一人のメンバーである、今宮(いまみや)茉莉(まり)さん。

 色白な肌と綺麗に編み込まれた髪のコントラストが映える、落ち着いた印象の女性だ。

 ……まあ、東浜さんと今宮さんの言葉は、石川くんの後ろにぴったりくっついた野村さんと、俺の腕に未だにくっついたままの琴美を差しての言葉なので、俺としては恥ずかしい思いをしていたのだけれど。


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