第23話 夏祭り③
お祭りが開かれている神社が近づくにつれて、琴美のように浴衣を着た女性の姿が増えてきた。
それでもやはり琴美の浴衣姿は特別目を引くようで、周囲からの目線を感じる。
中には女性と来ていた男性が琴美の方を見つめて、相手女性に怒られるといった場面も見受けられた。
普段から手を繋いで学校に行っていることから、ある程度衆目を集めることには慣れてきたと思っていたけど、その目線が学生以外も含めたもので、さらにお祭りという人が多く集まる場所となると、まだ緊張してしまうようだ。
「さすがに、浴衣姿って目立つね」
美人で人目を引きがちな琴美も、さすがにここまでは予想外なようで、苦笑いを浮かべていた。
「琴美は、ここのお祭り来るの初めて?」
「ううん、去年も友達と来たけど、その時は普通の恰好だったから」
どうやら、浴衣でお祭りに来るのは初めてだったらしい。
「いや、その、やっぱり浴衣って大変だからさ、見せる人がいないとなかなか、ね」
表情を照れ笑いに変えながらそう言う琴美に、俺はまた顔が赤くなってるんだろうなあと感じながら、
「ええと、ありがとう、で、いいのかな」
「よろしい、ふふ」
そんなやり取りを返すのだった。
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さて、せっかくお祭りまで来たのだ、楽しまなければ損というものだ。
「どこから回ろうか?」
「そうだねぇ、なんかやっぱ、お祭りといったら焼きそば、って感じしない?」
「確かに」
ということで屋台が立ち並ぶ中から焼きそばの屋台を見つけ、列に並ぶ。
無事購入し、二人で一旦屋台群を抜けて、幸運にも空きがあったベンチで並んで食べることにした。
「う~ん! このいかにも焼きそばソースって感じの香り! お祭りに来た! って感じするね!」
お祭りらしい味に満足気な表情を見せる琴美。
やっぱり、琴美のこういう顔を見ると、来てよかったな、って改めて実感する。
そう思いながら、俺も自分の焼きそばを食べ進めていたとき。
「っ!」
ふと顔を上げたとき、周囲にいる一組の男女が目に留まった。
女性のほうが男性に向けてたこ焼きを、いわゆる「あーん」の姿勢で食べさせ、男性側も「熱っ!」といいながらはしゃいでいた。
あの「あーん」っていうやつ、琴美も時々やりたがるけど、未だに恥ずかしさに慣れないんだよなぁ。
そんなことを思っていると、横からツンツンと指でつつかれた。
思わずそちらの方を向くと、いたずらっぽい笑みの琴美がいて、
「はい、あーん」
なんてことを言い出した。
「ちょっ、えっ、今!?」
ここは家でも学校でもない、公共の場だけど!?
しばらく目を泳がせてみても、琴美はやめてくれる気配がない。
「……わ、わかった。……あ、あーん」
結局俺は、応じる他なかった。
「熱くない?」
「……顔はめっちゃ熱い」
でもそのときの、イタズラが成功した子供のような琴美の表情が、とても可愛い、なんて思ってる時点で、本当に、しょうがないなあと思ってしまった。




