第22話 夏祭り②
そして、夏祭り当日はあっという間にやってきた。
俺は前に琴美と選んだサマーファッションの服を着て、琴美の家の前まで来た。
「浴衣は歩きにくいんだから、ちゃんと琴美ちゃんの手を引いて、エスコートしないと」
そんな言葉を母さんからもらったから、そういう約束になったのだ。
そういうことを、親から教えられてから始めている時点で、俺は恋人としてまだまだ未熟だなと自分を恥じながら、俺は琴美の家のインターホンを鳴らす。
程なくして、玄関のドアを開けてくれたのは、響子さんだった。
「あら、悠珠くん、ちょうどよかった。今ちょうど着付けが終わったところなのよ。琴美―、出てこれるー?」
その声に、奥からゆっくりと、琴美の姿が見えてくる。
「っ!」
その姿に、思わず息を飲んでしまう。
ライトグリーンを基調とした生地に、白と紫の花が散りばめられた模様。帯はベージュ色で、総合的なカラーリングは多少落ち着いたものだろう。
それでも、普段の琴美が持つ華やかさと合わさることで、大人っぽさを兼ね備えた、艶やかな美人に仕上がっていた。
そして、普段ポニーテールにしてる髪は綺麗に結い上げられ、白く小さな花を模した簪でまとめられている。
それが、いつもの快活としたポニーテール姿の琴美とのギャップを引き立てていて、正直、色っぽさを感じた。
そんな浴衣姿の琴美に俺が見惚れているうちに、琴美は俺の前までやってきて、
「どう……かな……?」
そんな問いかけを、俺にしてきた。
「えと……似合ってる……と、思う。思わず、見惚れちゃって……。本当に、素敵」
自分の顔が熱くなるのを感じながら、たどたどしくも想いを伝える。
「ふふ、ありがとう」
琴美はそんな俺に、微笑みを浮かべながら答えてくれた。
*******
さて、琴美と合流したことだし、いよいよ出発だ。
琴美は浴衣に合わせて、花の模様が飾られた下駄を履いていくようだ。
「大丈夫? 痛くない?」
「ふふ、こういうのは履いた最初は大丈夫なもんなの」
俺の杞憂に琴美はクスクスと返す。やはり、締まらない。
「でも、歩く速度は足の負担にならないよう、エスコートしていくから」
そう言って俺は左手を伸ばし、琴美の右手を取る。
そうして、俺たちは歩き出した。
……しかし、そこでまた俺は自分の間違いに気づく。
俺たちが歩いていた路側帯は、進行方向から見て右側に位置していた。
つまり、俺が琴美の右手を取っている関係上、琴美の方が俺より車道側を歩いていたのだ。
「……ごめん、引く手、逆にしていい?」
俺がそう言うと、また琴美にクスクスと笑われた。
俺は恥ずかしさをこらえながら、琴美の左側に移動し、琴美の手を取り直した。
「……悠珠らしいなあ」
その時俺は、バツの悪さをこらえるのに必死で、そうつぶやく琴美が満足そうな笑顔を浮かべていたことに、全く気付かなかった。




