第20話 夏休みの始まり②
さて、勉強を進めていくうちに、昼食の時間となった。
「どうしようかね?」
「まずは、冷蔵庫に何があるか見たいかな」
そう琴美が言ったことから、二人でキッチンに向かう。
「野菜の類は一通り揃ってる、お肉は……あ、豚肉があるね」
琴美は着々と状況確認を進めていく。
「調味料は……あ、カレーのルーがある! これがいいよ、簡単だし!」
そう言っていそいそとキッチンに食材を並べていく琴美。
「えっと、俺に手伝えること、何かあるかな?」
そんな琴美に、俺はそう申し出た。
「えー、いいよいいよ。アタシ自身、作りたいって気分になってるし」
やんわりと断られる。でも。
「世話になりっぱなしは、俺が気にしちゃうから」
「じゃあ、ご飯炊いてもらうとか」
「それはスイッチ押したら一時間待つだけじゃんか」
俺のわがままに、琴美は色々考えてくれている。
「んー、でも包丁を二人で使ってるとかだと危ないしなあ……そうだ! ポテトサラダでも作ってもらおうかな! ジャガイモをチンして、潰してもらったり、キュウリをスライサーで切ったり!」
「了解」
無事俺も仕事をもらうことができた。内心で「俺の気持ちを汲んでくれてありがとう」と思いながら。
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トン、トンと琴美が包丁で具材を切る間、俺はジャガイモの皮むきを進める。
琴美が具材を煮込み始める横で、俺はボウルに入れたジャガイモをマッシュ状にしていく。
そんな、キッチンに二人並んでの時間が、続いていった。
「なんか、いいね、こういうのも」
琴美は微笑みながら、こちらを向いてそんな言葉をくれる。
「……そうだね」
まるで夫婦みたいで、とは口にしなかったけれど、琴美も同じことを思っていてくれたら嬉しいな、と俺は感じていた。
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ご飯が炊きあがる頃には、カレーもポテトサラダもすっかり調理が完了して、すぐに盛り付けをすることができた。
テーブルには俺と琴美が向かい合わせになるように、配膳をする。
「いただきます」
「いただきます」
二人合わせて、挨拶をしてから、スプーンでカレーをすくって食べる。
「……美味しい」
一口食べて、思わずそんな言葉がこぼれた。
ルーやレシピは、普段母さんが作るものと大きく変化はないだろう。
それでも、琴美のカレーは特別な味に感じた。
以前琴美がハンバーグを作ってくれた時も特別に思えて、これが「隠し味は愛情」というものかと感じたけれど、今回はその時とも違う感覚が胸に広がっていった。
「えへへ、二人で作ったから、かもね」
琴美が照れながら、そんな言葉をくれる。
琴美の表情にも、満たされた気持ちがあふれているように見えた。
「これからも時々、こうしようよ。夏休みの間、さ」
俺の提案に、琴美は晴れやかな笑顔で頷いてくれた。




