第19話 夏休みの始まり①
季節は夏。
進学校である成平高校の厳しい定期試験をなんとか乗り越え、今日は終業式、これが終われば夏休みという日になっていた。
俺がいつものように朝の支度を整えている途中、いつものように琴美が俺の家までやってきた。
程なく俺も支度が終わり、学校に向かう前、
「そういえば、明日からはこうして琴美と一緒に学校に行くのもしばらくなくなるんだよな」
俺はそう、なんとなくつぶやいた。
「あー、確かに……」
琴美も反応する。なんとなくお互いローテンションな空気になった。
「えっ、別に夏休みもウチにきたらいいじゃない」
そんなとき、母さんが事もなげに突然そんなことを言いだした。
俺と琴美は思わず「えっ」と振り返ってしまう。
「ほら、きっと夏休みだからって課題とか学校から沢山出されてるでしょう? それを二人でやったらいいじゃない。琴美ちゃんが見てくれたら、私も安心だわ」
あー、そういうことね。確かに、学校からの課題は、終盤にまとめてやるには厳しい量が出されている。
そして、琴美は新入生代表を務めたことからもわかるように、校内でも上位の成績をおさめていた。
「じゃあ……」
「そうする……?」
俺と琴美は顔を見合わせながら、母さんの提案に乗っかることになったのだった。
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翌日。
「おじゃましまーす」
琴美は夏休み前と同じように、朝から俺の家にやってきた。
今回は家デート……じゃなかった、会う場所が家ということで、外でのデートに比べるとお互いラフな格好をしている。
でも「Tシャツにするにしても、少なくともシワになってるやつじゃないのにしよう」とか、「ジーンズくらいは穿いておくか」とか、これはこれで俺なりにいろいろ考えさせられたりした。
琴美もそうなのかはわからないが、パンツスタイルにフワッとしたトップスを合わせたシンプルな格好ながら、琴美のスタイルの良さが引き立って、とても似合っていた。
そのとき、ちょっとぶしつけに琴美の姿を見すぎたかもしれない。
「……似合う?」
そんな俺の顔を覗き込むように、イタズラっぽい笑みで訊ねてきた。
「……うん、キレイだと、思う」
思わず目を背けてしまったが、ちゃんとその言葉を言えただけ、今回は許してほしい。
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そんなやり取りも終わって、夏休みの課題をやるべく勉強道具を並べていた頃、
「それじゃ、私は会社に行くから。お昼はウチにあるもので適当によろしくね」
そう言って母さんは出社していった。
これで、琴美と俺の二人きり。
これはひょっとしたら、意識して勉強どころではなくなるかもしれないな……。
最初は、そう思っていたのだけれど。
ひとたび琴美が勉強を始めると、そんな雰囲気ではなくなった。
琴美はキリッとした表情で、真剣に勉強に向かう。
もちろんその横顔はキレイだし、時折見せる、髪を耳にかけるようなしぐさも美しい。
でも、その真剣なまなざしは……。
かっこいい。
そういう印象が強く残るものだった。
思えば、琴美は前に、俺を追って偏差値の高い成平高校に進学することを決めたと言っていた。
きっと、そのときから、本当に真剣に勉強したのだろう。
そして今の勉強に真剣な姿は、そのために努力した結果なのだろう。
そう思うと、俺も自然に勉強にやる気が出てきて、いつもより集中して課題を進められたのだった。




