後日談6話 悠珠 in 琴美グループ・後編
ぐるっと一周ウィンドウショッピングをした後、まだ時間があったのでみんなでちょっとカラオケ店に寄ることになった。
琴美がドリンクバーから飲み物を取ってくるというので、俺も一緒に運ぼうと席を立とうとすると、
「緒方くんは、ちょーっとウチらと話があるからさ」
なんて東浜さんが俺の腕を掴んで引き止められる。
「菜生、近い」
でも、その手は琴美の鋭い声で、すぐに離された。
「ごめんて。マジな顔やめよう、ね。もうしないからさ」
「絶対だからね!」
そう言って琴美はカラオケルームの扉を閉めて、飲み物を取りに行った。
「さて、緒方くん、琴美に歌ってほしい曲はあるかな?」
琴美がいなくなると東浜さんたちはすぐに調子を取り戻し、俺に質問を向けてきた。
「えっ、琴美は声がいいから、どんな曲でも似合うんじゃないかなと……」
「やっぱり彼氏としては、思いっきりなラブソング歌ってほしいよね! ねっ!」
「ええと、そりゃあ、はい……」
このテンションで全員で迫られたら、思わず正直に答えてしまう。
「オッケー、入れよう!」
そんなテンションの中で、琴美が帰ってきた。
「おおジャストタイミング! 琴美! 琴美の曲入れといたから!」
「えっ……って、これめっちゃラブソングじゃん!」
「彼氏くんの、リクエストですよ~!」
そう聞くと、琴美はバッと俺の方を向く。
「い、いや、みんなが『歌ってほしいよね!』って言うから……嘘は言えないし」
自分でも顔が熱くなるのを感じながら、顔を逸らしながら、でも正直に答える。
「……もう! しょうがないなぁ!」
なんて琴美は言って、結局歌ってくれることになった。
「人気のない、放課後の、廊下の隅〜♪」
琴美はそう歌い出す。それはとても澄んだ声で。
「偶然通りかかった、あなたに出逢った〜♪」
思わず、息を呑むほど美しくて。
「あなたの理想のヒロイン〜♪ いつの日にかなれますように〜♪」
それが、この歌が、俺との愛を映し出すものと、つい、想像してしまって。
「アドリブが苦手な私を〜♪ 素敵なシナリオで導いて〜♪」
そう思うと、また胸がいっぱいになるのだった。
琴美は歌い終わると、「ふぅ」と一息ついた。
「琴美ー! 凄いじゃん!」
それを合図に、みんなが琴美を囲みだす。
この場の全員異論なく、琴美の歌が魅力的だと感じたようだ。
「えっ、いやいや、大げさ」
「そんなことないって、だよね、緒方くん!」
そうやって、俺に話が向けられる。
「うん、本当に、その、すごく素敵だった」
顔が熱くなるのを自覚しながら、それでも、感じたことをしっかりと言う。
「そ、そう……」
俺の返答に対して、琴美も段々と顔が赤くなる。
「こりゃあもう、次は琴美と緒方くんのデュエットしかないっしょ!」
そんな状況を、みんなが見逃すはずがなかった。
「曲は何がいいかな?」
「そりゃあもう、『ホール・ニュー・ワールド』一択よ」
「それな! 天才!」
そんな感じで、カラオケも俺たち二人中心に進められていったのだった。
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そんな慌ただしい一日の、帰り道。
「悠珠、大丈夫だった? 大変だったでしょ」
そう、俺を気遣ってくれる琴美。
俺があまり集団でどこかに出掛けることがないから、疲れてないか心配してくれているのだろう。
「全然、俺も、楽しかったよ」
琴美の優しさに感謝しつつ、でも正直な気持ちを告げる。
「そっか、よかった」
琴美もほっとした表情を浮かべてくれた。
「琴美がからかわれてる姿も見られて、新鮮だったしね」
「い、いつもはあんなんじゃないから! 今日は悠珠がいたからだから!」
軽く冗談を向けると、しっかりと反応してくれる琴美に、思わず笑みがこぼれる。
「でも、本当に、今まで知らなかった琴美の顔が見られて、嬉しかったよ。琴美のことなら、どんなことでも知りたいからさ」
そう、正直に、真剣に想いを伝えると。
「そ、そう、なんだ?」
そんな照れ隠しの可愛い表情を向けてくれることも、今日知れたしね。




