第2話 重要ミッション:自己紹介
琴美が同じ高校に入学していたことも驚きだったが、なんとクラスまで俺と同じだった。
俺と琴美が同じクラスになるのは、小3以来、7年ぶりになる。
緒方と甲斐ということで、出席番号が1つ違いではあるが、俺の席は廊下側の一番後ろ、琴美の席は廊下から二列目の先頭ということで、席は離れている。
ホームルーム前の時間では、新入生代表を務めたこともあって、琴美の周りにはそれなりに多くの人が集まっていた。
それ以外にも、昔から変わらぬ綺麗な亜麻色ポニテの髪、シミのない白い肌、鮮やかな碧眼、そして中学の頃よりさらに良くなったスタイル、つまり琴美が美人であるということも人を集める要因としてあるだろう。
当然その輪の中に俺が入れるはずもなく、自分の席から琴美の周りの喧騒を眺めているうちに、ホームルームが始まることになった。
クラスの皆が席に戻ったり、担任の先生から高校生としての心構えの話などがあったりしたが、この場面での最も重要な事柄といえばもちろん自己紹介だ。
そして出席番号の関係上、俺の番はすぐに回ってくる。
「では次に、緒方くん!」
「は、はい」
名前を呼ばれて、席を立つ。
皆の視線が、俺に集まる。
……まずい、考えていたことが、全て頭から飛んだ。
「えっと……緒方悠珠といいます。えっと、趣味は、サブカル系というか、漫画とかゲームとかみたいな……あの、中学の時とかあまり友達がいなかったので、できれば皆さん友達になってほしいと……思います……以上、です」
……あまりにもひどい自己紹介だ。
なんだよ「友達になってほしい」って。
ぼっちで過ごした6年という月日は、どうやら俺のコミュニケーション能力をごっそり奪っていたらしい。
終わった。今回もまた、これまで同様のぼっち生活だ。
そう、思っていたのだけれど。
「次は……甲斐さん!」
「はいっ!」
その明朗な声が響いたとき、クラスの雰囲気が変わった。
「甲斐琴美といいます! 趣味はスポーツ全般と、あとは漫画とかゲームとかも結構好きです。先ほどの悠珠、緒方悠珠くんとは小学校、中学校が一緒でした。ですので、悠珠ともども、ぜひ友達になってください! よろしくお願いします!」
自己紹介時に定番のクラスの拍手が、いつもより大きくなった。
実は話している内容自体は俺とあまり変わらないのに、相手の反応が全く違う。
琴美の話し方、雰囲気が、俺のときとの違いなのだろう。
しかも、琴美は、俺のセリフを使って、俺の事にも触れてくれた。
自分だけでなく、俺の友達にもなってほしいと言ってくれた。
呆然と琴美を見つめる俺に、自己紹介を終えた琴美は一瞬俺の方を見て、机で隠すようにピースサインを向ける。
その時、俺は琴美に救われたのだと、ようやく理解した。