サイドストーリー:江藤都由の新生活
私の名前は、江藤都由。
今日からここ、成平高校に通う、高校1年生。
新しい制服に身を包んで、新しい環境への期待と不安が入り混じった、一人の女子生徒だ。
中学以前の友達は同じ学校にはならなかったけど、心のどこかで「まあ、きっと、何とかなるんじゃないかな?」という気軽な気持ちで、入学式を過ごしていた。
そんな状態なので、今隣に座っている、同じクラスとなる女子生徒のことも、今はぼんやりと認識していた。
そんな意識が変わったのは。
「続きまして、新入生の言葉。新入生代表、甲斐琴美」
「はいっ!」
そんな澄んだ声が、私の隣から響いてからだった。
その娘は堂々とした態度で、明るい顔でスピーチを進めていく。
ポニーテールでまとめている亜麻色の髪、キラキラとした青の瞳、シミ一つない白い肌、脚も長くスタイルもよい美人だ。
やがて、スピーチは終わり、私の隣の座席に戻ってくる。
思わず見上げていた私に、愛嬌ある微笑みを返してくれる。
その姿を見て、私はこの娘と仲良くなりたいと、強く思った。
******
入学式が終わって教室に来る。
入学式では隣だったけど、私は廊下側後ろから二番目、あの娘は廊下から二列目の先頭ということで、席は離れている。
でも入学式で隣だったし、いいか、ということで、荷物を机に置くと、あの娘の机の元に行くことにした。
彼女は新入生代表を務めたということで、机の周りには他にも人が集まっていた。
「あ、さっき隣でしたよね?」
でも、彼女は、私のことを覚えていた。
「私、江藤都由。よろしく」
「うん! 甲斐琴美です! よろしくね、江藤さん!」
彼女、甲斐さんは、とても明るい笑顔を見せてくれた。
******
「江藤さん、一緒にご飯食べよ!」
翌日、甲斐さんは積極的に私に絡んできてくれた。
私としては嬉しいけれども、あれだけ色々な人に囲まれていた中で、私が選ばれた理由はなんだろう? なんて疑問も持っていた。
だけど。
「ねえ、せっかくだし、悠珠も一緒に食べようよ!」
そう言う甲斐さんの弾む声と、輝く笑顔から、理由はすぐにわかった。
甲斐さんが幼馴染と自己紹介時に言っていた、この緒方悠珠くん。
甲斐さんはこの緒方くんと一緒にご飯を食べる口実が欲しくて、席が近くの私と最初に仲良くすると決めたのだろうと。
ただ別に嫌な気持ちはない。
なぜなら。
「あっ、悠珠、卵焼きあるじゃん、アタシのと半分交換しよ!」
「いいけど、なんで? どっちも卵焼きじゃん」
「だって、卵焼きって家によって味が違わない? ほら、これアタシの」
「そうかなぁ……はいこれ」
甲斐さんの可愛らしい甘えに、やれやれといった感じで、それでも内心満更でもなさそうな緒方くん。
これだけ二人に仲睦まじい姿を見せられると、ただ単純に応援してあげたいと、そんな気持ちが浮かんだから。
******
その日の放課後。
帰りの準備をしている甲斐さんを、少し呼び止めてみる。
「どうしたの?」
疑問符を浮かべている甲斐さんに、耳元でささやく。
「今日、ご飯食べようって言ってくれたの、本当は緒方くんと一緒に食べたかったからだよね?」
「!?!?」
甲斐さんは飛び跳ねるように後ずさり、顔を赤くする。
その可愛らしい姿に、思わずふふっと笑みがこぼれる。
「あ、ええっと……ごめん、利用したみたいで……」
その後すぐ、甲斐さんは叱られた子犬のように、シュンとしてしまう。
別に怒ろうと思って話したわけではないのだけれど、そんな姿も可愛くて。
「それじゃ、緒方くんを呼ぶみたいに、都由って呼んでくれたら、許してあげようかな?」
そんなイジワル半分な言葉を、微笑みながら返してみる。
それを聞いた甲斐さんは、ふわっと花開くように笑顔になって。
「わかった! これからもよろしくね、都由!」
その弾む声を聞いたら、私も嬉しくなって。
「うん、よろしくね、琴美!」
そう言って二人、笑いあったのだった。
******
それからまた、少し月日が流れて。
琴美と緒方くんは、晴れて付き合うことになって。
「都由~! 悠珠~! 一緒に食べよ~!」
けど、二人が付き合った後も、私は二人とよく一緒にお昼ご飯を食べている。
そして。
「あっ、悠珠! その肉じゃが美味しそう! 一口ちょーだい!」
「ん、いいぞ」
琴美の要望に応えて、琴美の弁当にじゃがいもとお肉を移そうとする緒方くん。
その動きを、琴美は手で押さえて。
「ん。あ~ん」
なんて言って口を開けてそこを指差していた。
それを見て緒方くんは一気に顔を赤くして、目を泳がせて。
それでもそっと、丁寧な動きで、肉じゃがをつまんだ箸を、琴美の口に差し入れた。
「ん~! 美味しい!」
満面の笑みでほおばる琴美も、頬を少し赤らめていて。
そんな琴美のことを、なかなか真っ直ぐに見られないながらも、顔を背けながらチラチラと琴美の方を見る緒方くん。
そんな微笑ましい二人の日常を、すぐそばで見られる日々が続いていて、私も笑顔で過ごす日が増えていったのだった




