第16話 エピローグ
「うーん……」
俺は鏡の前で、自分の制服姿を見ながら渋い顔をしていた。
どうにも、若干美容院でセットしてもらったときほど、髪型が上手くまとまっていない気がする。
琴美にいろいろ助けてもらったけど、俺はまだまだ頑張らないといけないようだ。
でも、俺は、一人じゃない。
ピンポーン。
家のチャイムが鳴って、母さんが対応する。
「あら、琴美ちゃん、今日は早いのね。どうぞ、一回上がって」
「ありがとうございます。お邪魔しまーす」
慣れた動きで、琴美がウチに上がってくる。
琴美は俺と恋人同士になってから、毎朝俺の家にやってきて、一緒に登校するようになった。
一番最初に琴美が来た時には、母さんにも琴美と付き合うことになったことを説明することになって、その時、思い返せば俺はどんなに恥ずかしい言葉を並べていたのだろうと悶え苦しむことになったけど、
「いいじゃない、アタシにとっては、最高の思い出になる出来事だったんだから」
なんて琴美に言われて、それもそうかと思ってしまうんだから、やっぱり敵わないな、なんて思ったものだ。
「おはよっ、悠珠! 苦戦してるみたいだねえ」
「ああ、おはよう、琴美。まあ、すぐにはできるようにならないよな」
洗面台の前の俺のところに、琴美はやってくる。
「うーん、こうじゃない?」
琴美は突然、俺の髪に触れていじりだした。
「ひゃっ!?」
思わず、変な声を出してしまった。
急に琴美に髪を触られて、思わず声が出てしまう。
「……触るなら、事前に言ってくれ」
照れを含んだ顔で琴美を睨んでも、琴美は笑うばかりだ。
「ごめんごめん。……でもほら、カッコよくなった」
……そう言われてしまうと、俺も許してしまう。
正直、鏡を見返しても、実感はない。
ただ、俺は琴美にとってだけかっこよければいいだけだから、まあいいかと考える。
身だしなみの整えが終われば、後は鞄を持って、学校に行くだけだ。
「それじゃ、行ってきます」
「椿妃さん、行ってきます!」
俺と琴美は揃って母さんに挨拶をし、母さんも「行ってらっしゃい」と返す。
家を出ると、二人並んで、駅へと向かう。
どちらともなくお互いの手を近づけ、指と指を絡ませて、恋人繋ぎで手を握りながら。
駅からは、並んで電車に乗り、学校の最寄り駅を目指す。
電車内では、相変わらずの満員電車の中、できるだけ琴美の身体をかばうようにして立つ。
思わず琴美と顔が近くなり、自分の顔が熱くなるのを感じるが、琴美が笑顔を向けてくれているので、悪い気はしない。
学校の最寄り駅からは、再び二人手を繋いで学校に向かい歩く。
ここまで来るとウチの学校の生徒も多く、琴美の美人ぶりもあって、多少嫉妬の視線も感じる。
最初、「学校前は、やめておかないか?」と琴美に言ってみたら、もっと強い力で手を握られたので、視線を避けるのはもう諦めた。
正直、まだ慣れたとは言えないが、琴美の恋人としてふさわしくなるために、越えなければならない壁だと今では思っている。
そうこうしているうちに学校に着き、そして俺たちのクラスまで着く。
俺と琴美の席は離れているため、ここで初めて二人が離れることになる。
……琴美が離れる直前、一瞬手をギュッと握ってきたので、まだ琴美は名残惜しそうだけど。
こればっかりは仕方ない、俺は自分の席に着き、鞄を置く。
「おはよう、今日もラブラブだったねえ」
俺の前の席の江藤さんから、そんなからかいの言葉を受ける。
でも、江藤さんは琴美がずっと俺とのことで相談に乗ってもらっていたと、付き合った日に琴美から教えてもらったので、江藤さんの言葉を受けても不快感はない。
「ええと、その、おかげさまで」
俺は頬を掻き、目を逸らしながらそう答えると、江藤さんはにっこりとした笑みを浮かべた。
江藤さんに限らず、クラスの他の人たちからも、概ね好意的な反応をもらっている。
俺たち二人が強く真剣に愛し合っていると、みんな理解してくれているからだろう。
それから先生が教室に入ってきて、今日も学校生活の始まりだ。
7年ぶりの、琴美と同じクラスでの学校生活。
昔は、一緒にいるのが当たり前だった。
それが、いつしか周りの空気に押され、一緒にいられなくなっていった。
そして現在は、お互いの意思で、より近い距離で過ごすことを決め、周囲も理解してくれている。
そんな新しい日々は、これまでで一番、幸せなものになっていた。
「幼馴染と7年ぶりに同じクラスになった」をここまでご覧いただき、ありがとうございました!
この第16話をもちまして、本作の第1章は完結となります。
ですが!
悠珠と琴美が付き合った後の物語を、現在数話投稿を予定しております!
投稿頻度はこれまでと比べて少し落ちる予定ですが、どうか今後のお話もご覧いただけれは幸いです。
是非ともよろしくお願いいたします。