第15話 悠珠の想い、琴美の想い
男子が去って、姿が見えなくなった時。
「悠珠、もう出てきて大丈夫だよ」
琴美に、そう声をかけられた。
「……気づいてたのか」
そう言われて俺は、琴美の前に姿を現す。
「ごめんな、これじゃ本当にストーカーみたいだよな……」
俺ができるのは、素直に謝ることしかない。
「ううん、悠珠がいてくれて、心強かったよ」
そう言って笑ってくれると、俺の気持ちも少し和らぐ。
「それに……アタシ、悠珠のストーカーだしね」
琴美は、少し俯きがちに、そんなことを言った。
「えっ、それはどういう……」
俺は、その言葉の意味が掴めない。
「だって、アタシがこの成平高校に来たのは、悠珠と同じ学校に行きたかったからだし」
そんなことは全く知らなかった俺は、当然驚く。
でも。
「……ね、気持ち悪いでしょう?」
琴美のそんな言葉には、すぐに首を横に振った。
「そんなわけない」
琴美の目を見てはっきり言う俺に、琴美は驚いた顔を見せる。
「えっ……なんで……」
「大好きな人がそこまで俺を想ってくれているのに、嫌になるなんてありえない」
俺は、はっきりと自分の気持ちを伝えた。
「高校で琴美と再会して、何か話すたび、何か一緒にするたび、思ってた。俺は、毎日、どんどん、琴美のことが好きになっていくなって。それはきっと、本当は昔からそうだったんだろうって。俺はきっと、ずっと、琴美のことが好きだったんだ」
「でも……でも! アタシは! 悠珠にいつも迷惑ばっかりかけてた! 小学校の時だって、アタシなんかと一緒にいたから悠珠は中傷されて、中学の時だって、アタシのせいで悠珠への悪口が広まって……。なのにアタシは、悠珠が苦しんでたのに、小学校でも、中学校でも、何もしてあげられなくて……」
琴美は、喚くようにそんなことを言う。
きっと、琴美はずっと、このことを気に病み続けていたのだろう。
そんな心優しい琴美が、悪いわけがない。
「琴美は悪くない。何も悪いことをしてない。悪いのは、俺たちを悪く言った人だけだ」
「悪いよ! だってアタシ、何もできなかった! クラスメイトだって、先生だって、アタシが何を言っても誰も動かせなかった! 悠珠はアタシが困ったとき、身体を張って、勇気を出して、助けてくれたのに! あろうことか、アタシはそれを『悠珠がアタシを助けてくれた、キレイな思い出』みたいに思っちゃってて! 悠珠にとっては、辛く苦しい出来事だったのに! 自分だけいい思いして、自分は悠珠を助けるのを怖がって……」
「でも、高校では助けてくれた。だろ?」
俺のその言葉に、琴美は顔を上げた。
「昔の琴美は、俺を助けられなかったかもしれない。でも、琴美は勉強を頑張って、俺と同じ高校についてきてくれて、クラスの中心になるコミュニケーション能力を身に着けて、そうして、俺を助ける力を掴んで、琴美は俺をぼっちから救い出してくれたんだ」
心からの想いをはっきりと伝える俺に向かい合う琴美は、目を潤ませ始めた。
「やっぱり、こうなっちゃったじゃん……。やっぱり、悠珠の優しさに甘えちゃったじゃん……。ダメなのに……。心のどこかで、優しい悠珠なら許してくれるって、そんなこと考えてたズルいアタシなんか、悠珠に責められて当然なのに……」
「俺は琴美のこと、責めたいなんて思わない。琴美にしてほしいことは、俺と一緒にいてもらうことだけだよ」
俺のその言葉で、琴美の目から雫が零れ落ちた。
「うわぁーーん!!」
涙を流す琴美が、俺の胸に飛び込んでくる。
俺はそっと、その琴美を受け止める。
「ごめん、ごめん、悠珠……」
「今は、違う言葉が欲しいかな」
「……悠珠、ありがとう」
「うん……」
琴美はちゃんと、俺の欲しい言葉をくれた。
「琴美、やっぱり俺、琴美が好きだ。俺と、恋人同士になってほしい」
「うん……うん、よろしくね! 悠珠!」
最後は俺の胸から顔を上げて、明るく答えてくれた。
それは、俺の大好きな、琴美の笑顔だった。