第12話 はじめての美容院
琴美と買い物に行った、数日後。
琴美おすすめの美容院の予約が取れた日に、約束通り琴美と買った服装で行った。
お店の外観のオシャレ加減からして、気後れしそうになるが、店の前で立ち止まっていても不審者になるだけだ、意を決して入店する。
「いらっしゃいませー!」
「あ、あの、予約の緒方です」
「緒方様ですね、まずはお荷物こちらへどうぞ」
スムーズな接客で段取りが進められ、やがて席へと通される。
そして、ファッション誌に載っていそうな服装にピアスをした、明るい髪色の女性がこちらに歩いてきた。
おそらく美容師さんだろう。さすがのオシャレさだな。
「こんにちは、本日はどのような仕上がりにいたしましょうか?」
明るい笑顔で、俺に話しかけてくる。
正直、初対面の人との話は苦手だ。でも、緊張しながらも自分から伝えないと始まらない。
「え、えーっと……この服、幼馴染の女性に選んでもらった服なんですけど、この服の雰囲気に上手く合うようなヘアースタイルにできればなー、って、思うんですけど、どうですかね?」
たどたどしくも、俺は美容師さんに希望を伝える。
こんなふんわりした内容で大丈夫かな、と不安だったが、美容師さんの表情が生暖かいような目になって微笑み、
「わかりました! おまかせください!」
と言ってくれたので、きっと大丈夫だったのだろう。
最初のシャンプーからてきぱきと進められ、席に戻っててきぱきとカットが進められる。
「当店は、その幼馴染の方からのご紹介ですか?」
美容師さんはカットを続けながら、にこやかに話しかけてくる。
「は、はい、甲斐琴美という子で……」
俺はたどたどしく何とか返答していく。
「ああ、甲斐さんですか! 彼女可愛いですよね!」
美容師さんは、琴美のことを知っているようだった。
「ええ、まあ……」
「甲斐さんも、私担当したことがありまして……」
そんな感じで、琴美の話を美容師さんからいろいろ聞き、俺がなんとか相槌を打っているうちに、カットは完了した。
髪は切っても俺は俺なので、特に急に別人みたいに見えることはないのだが、もっさりしていた髪が、癖を生かす形でさっぱりカットされ、下に琴美が選んでくれた服を着ていることで、顔はともかくシルエットは自分から見ても少しは改善しただろうと感じる。
さすがプロだなあと感心していると、
「きっと、彼女さんも気に入ってくれますよ」
そんな言葉を耳元で言われ、
「か、彼女とかそんなんじゃないですから!」
思わず大きな声を出してしまい、恥をかくことになってしまった。
家に帰って俺は、早速琴美からの宿題であった、カット後の写真を撮ることにする。
「学校のことといい、今回のことといい、琴美に助けられてばっかりだな……」
そんなことを反省しながら、写真の準備をする。
「えっと、確か自撮りって、斜め上から撮るのがいいんだっけ?」
そんな調整をしながら、まずは一枚。
「……なんか表情が締まってないな」
なんだかしっくりこなかったので、もう一枚。
「……なんか、背景が散らかって見えるな」
撮る場所を変えて、もう一枚。
「……うーん、もうちょっと、って、あれ?」
何度も撮りなおしているうちに、ふと気づく。
俺は、琴美にかっこいいと思われたい、そんなことを考えていたと。