第10話 プロジェクト実行日
あの雨の日から、少し経った土曜日。
俺は少し落ち着かない気持ちで、ショッピングモールの最寄り駅前に立っていた。
「あっ、悠珠―!」
駅の改札から降りてきて、こちらの方に向かってくる美少女。
亜麻色のポニテを揺らして登場してきたのは、もちろん幼馴染の琴美だ。
「お待たせ、待った?」
「えっ、いや、別に」
「そっか、よかった! ……どうかした?」
琴美は俺の視線が動いていたことが、気になったようだった。
何を見ていたかといえば、もちろん琴美のことだ。
今日の琴美は、チャームポイントの亜麻色のポニテはそのままだが、服装が余所行きに変わっていた。
全体的に落ち着き目の色で上下合わせているのだけれど、襟元の白のフリルが可愛さを醸し出していて、それでいてふわりとした余裕のある長めのスカートが、上品さを高めている。
要するに……。
「いや、その、綺麗だな、と、思って。その恰好の琴美」
いつもと違う琴美の姿に、見惚れていたのだ。
「えっ、あ、ありがとう……。悠珠もそういうこと、ちゃんと言えるようになったんだね、えらいえらい」
そう言って琴美は俺の頭を撫でてくる。
「ちょっ、まっ、恥ずかしいって!」
慌てて俺は琴美から離れると、琴美は笑っていた。
「ま、今回はアタシが悠珠の先生ってことで、これで説得力ありでしょ。さ、行こ!」
琴美は俺を引き連れるように、先行してショッピングモールへと足を進めた。
その時実は琴美の耳がほんのり赤みを帯びていたことに、俺は気づかなかった。
さて、今日の目的たる俺のコーディネートなのだが、
「うーん、脚が細長いんだから、パンツはスキニー系で合ってると思うんだけど……うーん、このジャケット? いや、それだとインナーとの組み合わせが……」
難航していた。
ああでもない、こうでもないと琴美が様々な服を持ってきては、俺は淡々と着せ替え人形に徹する。
俺自身はファッション知識が皆無ということで、琴美にされるがままにされている。
琴美自身も、最初俺が着ていた、昔から穿いているジーパンと謎の英語プリントがされたTシャツの組み合わせについては、
「うん、今日は全部アタシに任せるべきだね」
とバッサリだった。
……でも。
琴美が、俺のために、あれこれと考えてくれる、そのこと自体には、少し嬉しさも感じていた。
「うーん、あとちょっとなんだけどなあ……」
そうこうして、コーデは進んでいく。
ファッションの何たるかは俺にはわからないが、最初に比べればだいぶマシに見える。
そうは言ってもモデルは俺、そりゃあ苦戦もするだろう。
「ありがとう、俺をモデルにしたにしては、見れるようにまではしてくれたじゃん。ここら辺が俺の限界なんだって」
そう言った途端、琴美は眉を吊り上げて、
「は? まだいけるし。なめんな」
そう怒られてしまった。
でも、あんまりずっと琴美の時間を使うのも悪いしなあ……。
なんとか琴美をなだめる方法を考えていた、その時。
「はっ! もしかしてこれか!?」
そう言うと琴美は寒色系の帽子を手に取ると、俺の頭に被せた。
すると、もっさりとした俺の髪型が隠されて、シルエットがずいぶんシャープになる。
「これだ! これにしよう!」
琴美は自分の事のように大はしゃぎだ。
だいぶ着せ替え人形に疲れてきていた俺も、その琴美の笑顔を見ると、報われたようでうれしくなる。
「琴美、ほんとにありがとう。これら買ってくるよ」
「うんうん! そうして! ……あと、後でアタシが通ってる美容院教えるから、その格好して似合う髪型にしてもらうように! カットしたら、すぐにに写真撮ってアタシに見せること! 結果が気になっちゃうからね!」
「あ、ああ……」
そんな宿題をもらい、緒方悠珠着せ替え人形化プロジェクトは、一応の解決をみせたのだった。