時の魔女
時の魔女セリナ。この女性は筆者の前作『俺、今、女子リア充』のメインキャラクターの一人なのですが、最近完結しましたのでもし興味がありましたら是非読んでもらえれば嬉しいです。
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さて、ロータスとイクスが公爵の晩餐会、フェムとサクアが別の大陸にいたちょうどその頃、この謎のパーティのもう一人のメンバーであるセリナは……
なんと宇宙空間にいた。
「……この辺に……あ……るかも」
真空を宇宙服も着ずに平然とした顔で漂い、何か噴射している様子もないのに、時々スーッと空間を移動して、慣性の法則など無視するかのようにピタッと止まる。
宇宙で生身のまま行動できているのも異常だが、物理法則に完全に無視した動きもその異常さに拍車をかけている。
セリナ。
突然、邪竜の前に現れたパーティのメンバーにして、非凡な才をもつ魔法使い。
このように宇宙空間で行動することなど、近所を散歩するのと変わらぬ様子であった。
だが、これくらいで驚いてはいけない。
彼女の本領が発揮されるのは、もっと別の魔法においてである。
それは時間操作。
未来予測に時間停止……
時そのものの化身とも称される魔女。
時を操る力において彼女に勝る者などいたことはない。
時間魔術師どうしが時間を止めあったり、魔法を阻害する魔導具を準備されたりしたり。
実は、星の彼方(?)から来たらしき一団の一人、彼女はいままでの冒険の中で、そんな場面に遭遇している。
だが、彼女が敵に遅れをとったことも、魔導具に術が邪魔されたことも一度もない。
負けたことがないどころか、相手と拮抗した戦いさえない。
だから、実力がどのくらいというのが計り知れないのであるが……
セリナの操る時の魔法にはあるうわさがあった。
そもそもセリナの時の魔術とは——我々の知る時とは違うものを扱っているのでは? というものであった。
時を止めようとした敵は、もっと上位の概念である何かを止められ敗亡ていたのでは?
……まあ、その謎は物語が進むに連れてわかるとして、
「い……た……」
セリナは何かを見つけたようだ。
そこは、周りと同じ真空の宇宙空間にしか見えないのだが、手をぐっと差し入れると、虚空から何物かをひきづり出す。
——キキキュウウウウウ!
その黒い塊は叫んだ。
もちろん宇宙で声が伝わる訳はないが、もしそばに意識を、思考を持つ者がいたならば、その精神に直接響いたことだろう。
恐ろしく、不気味であったが、どこか悲しいその声。
「かわ……い……そう」
セリナは慈愛に満ちた表情でそう言うのだった。
とはいえ、相手の方は余計な同情は不要というか、むしろセリナの態度にむっとしているのか、威嚇するように大きく波打つ。
「止まれ」
セリナは言うのだが、
「や……っぱ……り」
宇宙に浮かぶ黒い塊は止まらずにセリナに向かって進んでくる。
時間操作において誰にも負けないはずの彼女の術を破るものがついにあらわれたのだろうか。
「止まっ……た……と……きのな……かで動く……もの」
セリナは砲弾状になり彼女に向かって飛んでくる塊に向って言う。
「時の彼方で……癒きなさい」
どす黒い色をしていた塊は、瞬く間にその色を変える。
紫から、赤、オレンジ、黄色、緑、青。
そして無色透明となった塊の中に、小さな茶色の物体が現れて、
「そ……れがあな……たの本……当の姿……な……のね」
次第に形が整って、リスのような小動物の姿となり、繭が弾けたところで丁度セリナに到達する。
慈愛に満ちた表情でその動物を抱きしめながらセリナは言う。
「あなた……に永遠をあげる。どん……な呪いも、それよ……り先には追いつけない」
すると、小動物は彼女の胸に抱かれたまま光の粒となって散り散りに消えるのであった。
そして、その残光を、しばらくの間、哀しそうな表情で見つめていたセリナであったが、
「……奴……らの監視役……は……排除した。これで本隊……が……やって来る……と思う。うん、計画……どおり。ええ……そっち……に戻って……ローゼ……さん……に……合流する」
遠話の魔術で仲間と連絡をとり、どうやら地上に戻るようであった。
しかし、
「……もうちょっと……だけ、宇宙にい……る。あの人に少しでも近い宇宙に……」
と言うと、遠い宇宙の彼方を見つめながら、無重力の空間を漂うのであった。