魔族襲来?
「こんにちは魔族です」
マスカットの後ろから現れたのは、キミーと名乗った魔族だった。
どうしてベランダに……
ヴィンは緊張して身構えた。
なにしろ、身に覚えがありすぎたのだった。
全くその気はなかったとはいえ、盗賊団の砦と一緒に、大地を、その先の魔族の本拠地を切り裂いてしまったのがヴィンであった。
そんな、彼の元に魔族がやってきたとしたら……
その目的は?
——暗殺。
暗殺者として潜入の訓練を受けたマスカットが、超高級ホテルのセキュリティを突破できたのは、まあそういう者かと納得したが、同じような能力を持つ者は、同じような属性を持ってる可能性が高いのではないか。
暗殺者。
現れた魔族は、その仕事のために、潜入の訓練を受けたと考えるのが自然だ。
しかし、
「魔族ですから」
キミーは、背中から大きな翼を広げながら言った。
それを見て、マスカットが首肯しながら言う。
「飛べるのもありますが、私と同じくらい身のこなしが素早やくて……キミーさんはすごかったです」
「魔族ですから」
どうやら魔族というものは、そういうものと言うことのようだが、
「へえ」
「そういうものなの? ヴィン?」
フェムに問われ、
「……よく知りません」
と答えるしかないヴィン。助けを求めるような目でキミーを見るが、
「魔族ですから」
なにしろ魔族と人間はほとんど交流らしい交流がなく、その実態は謎に包まれていたのだった。
大昔は激しい抗争を繰り返したと聞くが、それは伝説の時代のことである、二つの種族はずっと相互不干渉をつらぬいていた。
いや「いるではなくて」「いた」なのだった。
最近はずいぶんときな臭いのだった。
ここ十年くらいのことだ。
少なくとも、何千年も人間と接触を避けていた魔族が、ちょくちょく見かけられるようになったのだった。
さすがに街中に現れることはほとんど無いが、オプティシアン盗賊団が根城にた岩山にいた魔族のように、人間の生活圏周辺にその姿を見かけるようになった。
奴らは何かを企んでいる。
人間たちはそう思い疑心暗鬼になり。
だからこそ、魔族と組んだと言われた盗賊団が腫れ物に触るようなあつかいとなってしまったのだが。
「……魔族の事情をお話しした方が良いですよね」
その真実は、少し込み入った事情があるようであった。