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ココ・ダメダ

夜景を見ていたとしましたが、時系列的にまだ日暮れ前の出来事なので修正しました(2024/3/24)。

 ヴィンが本当は英雄に慣れたはずの夜。

 それは、今から三年とちょっと前のことであった。

 本来ならばその時に精霊の声により命を受け彼の使命をまっとうするはずであったのだが……


 この大陸では勇者システムが壊れていた


 せめて聖剣を抜いていれば、彼は意識せずとも勇者として行動し、成長し、その後のサラマンダー出現に対応することができたかもしれない。

 その災厄のための勇者誕生だったのだ。


 しかし、ヴィンは勇者の力を授かったのだが覚醒をすることができなかった。

 勇者という認識しないままに修業を続け、勇者システムが想定した成長とは別の形で覚醒を果たした。それがゆえに、彼は単なる勇者を超えた者となるのだが……それは後の話。


 ともかく、今のヴィンである。


 荒野で盗賊団を壊滅させた後、隠れ潜んだ森で刺客に襲われ、少女を洗脳して暗殺機械としたそのやり方にカッとなって勢いのまま飛び出して……


「しかし、すごい眺めですね」


 数年前の回想を終えて、振り向いた彼の目に入るのは、圧倒的な極彩色の街の姿、下品を通り越して、これはこれで芸術とでもいうべき領域に到達している景色であった。

 ここは、近辺で一番の街、ココ・ダメダ。

 荒野の中のポツンとある大きな都市である。

 付近の土地は痩せて農業に向かないし、鉱物などが取れるわけでもないが、旅の中継地として発展し、ギャンブルや売春を豪放にしたことでとても栄えることになった大歓楽街を有する場所であった。


 ココ・ダメダ。

 金さえあれば、どんな物でも買える場所。

 どんな悦楽でも用意できる。

 この地の光に誘われて、集まる者の富を焼き尽くす、深き闇を持つ悪徳の都であった。

 

 そんな、街の中、ヴィンが今いるのはある超高級ホテル。

 それも最上階の部屋であった。


 正直、治安が良いとはいいかねるこの街。

 安全をカネで買うのであれば、このような場所が一番良いであるが、


「僕は、こんなとに泊まったことないですよ……大丈夫でしょうか」


 ヴィンは随分と落ち着かない。

 大丈夫と言われても、なにが大丈夫かって、


「ヴィンくんなら宿泊代払えますよね」

「盗賊団を壊滅させた報酬もらえるよね?」


 こんなホテルに泊まって支払いができるかである。

 サクアとフェムは何にも不安に思っていないようだが、


「……盗賊団を壊滅させたからこんなホテルに隠れないと危ないんでしょう」


「賞金もらいに行けないのですか」

「そうなの?」


「……」


 誰のせいだと思いながらも、もう突っ込む気力もなく黙るヴィン。

 たてまえとしては盗賊団討伐依頼クエストと賞金はあるとはいえ、魔族と通じる彼らを刺激する気はない、冒険者ギルドも警備兵も本音は敵対する気なんてなかったのだ。

 それなのに魔族を刺激どころか、直接攻撃してしまったヴィン。

 彼を殺して魔族への交渉材料にしようと暗殺者の少女——マスカットを送り込まれたくらいだ。


「じゃあしょうがないですね」

「これでなんとかなるかな」


 フェムが空中に手を入れて、突然取り出したのは、


「……」


 両手いっぱいの金の延べ棒だった。


この星(ここ)の金のどれくらいか知らないけど、足りるでしょ?」


「……十分ですが、このままフロントに出す気ですか?」


「ダメなのですか?」


「……もしかしたら受け取ってくれるかもしれませんが……高級ホテルのコンシェルジェですから客の頼みなら換金も……」


 なのだが、


「あんまり目立ちたくはないですね」

「金の延べ棒を持ち歩いてる一行って噂になると変なのよってくるかもしれないね」


「それじゃこうしますか」


 サクアが、金を無造作に放り投げると、


「……えええ」


 頭の上から雪崩のように落ちてくる金貨をさけて後ろに下がるヴィン。


「なんですかこれは」


 床に山のとなる金貨を一枚掴んで疑わしそうな目でじっくりと見るヴィン。


「なんか疑ってるのかな」


「偽物じゃないんですか」


「金貨がですか?」

 頷くヴィン。


「そんな、これは本物より本物ですよ」


 本物そのもの(・・・・)ではないんだなと理解するヴィン。


この星(ここ)の金貨なんて混ざり物が多くて18金がせいぜいだろうけどこれは純金にしておきましたから」


「はあ……」


 確かにこの金貨をもらっても誰も困らないのかもしれないが、どうにもなんか釈然としない気分で、


「とはいえ、他に手持ちがあるわけでもないですから……」


 しょうがないかと思うヴィンであった。

 支払いの不安は消える。

 せっかくなので夜景を楽しもうかと窓に近寄ると、


「調査から……帰りました……」


 ベランダに音もなく降り立ったのはマスカット。

 今、目的を同じくしてこの場所へ来た暗殺者なのであった。


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