ヴィンの場合
アウラが、第二聖女ウネルマとの会話で自らの勇者としての運命に深く思いを巡らせているちょうどその頃、
「ところでどうですか? ヴィンくん……勇者となった気持ちは」
「え?」
サクアから唐突に問われてぽかんとするヴィン。
別大陸の、つい昨日、覚醒した勇者であった。
「なんかこうないの? 勇者となった抱負とか……不安とか……」
「何ですか? いきなり唐突に」
フェムも興味があるようだ。
「……いやどう思っているのかと思いまして」
「比較したくてね」
「比較?」
「勇者になった気持ちですよ」
「……?」
誰と? と言いたそうなヴィンであった。
「そういうのって一般的に大変なことじゃないかと思ってね」
「一般的に? ですか? 勇者って、あまり一般的ではないと思いますが」
「まあ、そこは勇者というもの一般はどう思うかって典型的な常識と比較したいということですよ」
「ああ……なんだかよくわかりませんが……」
「比較とか気にしないで、思ったままで言ってくれれば良いよ」
「勇者ですか……自分がそうなったって言われても実感がわかないというか、そもそも、フェムさんが言ってるだけですよね勇者って」
「まあ、そうですよね。フェムの言葉に重みが無いのは同意します。でも私も保証しますよ。ヴィンくんは勇者として覚醒してますよ」
「サクアの言葉なら信じられるわけでもないと思うけど。勇者というのが地力からの特別なパスを得た者であるなら、ヴィンは勇者で間違いないよ」
「……でも、伝承では。勇者であることは、精霊の声により使命とともに告げられると聞きますよ」
「ああ、そういう仕組みなのかもしれませえんが……」
「今、壊れてるよね」
「壊れてる?」
「この星の深淵とつながる、精霊と呼ばれる媒介者ですね。ロータスなら直せましたが、それは治さないで置こうってセリナが言ったのですね」
「あたしたちのくるだいぶ前に壊されていたけど、そのままにしとかないと、そのまま隠れちゃうだろうって」
「隠れる?」
「私達が探しているものです」
「この星に来た目的だよ」
「……なんだかやっぱり良くわかりませんが」
「ヴィンが勇者なのはまちがいないですから」
「実際、いきなり強くなったのは感じたでしょ」
「それは……」
サクアに渡された剣を振ったあと、ヴィンの中のたがが外れた。
盗賊団の砦どころか、大地を、山を切り裂いたのは、怪しげな剣の力であることは間違いがないが、それは彼自身が行ったことであるのも間違いはない。
「そもそもで言えば、ヴィンは勇者であるのに気がついてなかったんだと思いますよ」
「サクアはきっかけをつくっただけだね」
と言われれば、ヴィンに思い当たらないわけでもなく、
「そういえば……」
数年前のことを思い出すのであった