勇者が誕生した時
旧神が消えて人類の歴史が始まって以来、人類に危機が生じた時に現れるのが勇者である。
この星を現在統べる精霊とそのつながる地力の力により、勇者は現れると言われている。
少なくとも勇者のうちかなりの者が、精霊の声により、その使命を聞き覚醒している。
当代の勇者アウラもそうであった。
それは、まだ彼女が幼き頃、夜に、子供の足では何十分もかかる、街外れの森まであるき出した時のことだった。
なぜ、そんなことをしたいと思ったのか、さっぱりわからなかったけれど、おさえきれない焦燥感に突き動かされて、こっそりと屋敷を抜け出し、月夜の夜道を進み、真っ暗な森の入口に立つ。
その時に声が聞こえた。
——中に入り聖なる斧を抜きなさい。
優しい口調だが、反論を許さない迫力をもった声に命じられるまま、アウラは森に入る。
街の近くにある、比較的安全な森である。
街道にも近く、日中は人通りもあるため魔物もそれほど寄り付かない場所ではあった。
しかし、夜は違う。
聞いたこともないような怪しげな鳴き声が聞こえた。
嘲笑うかのような、喜び舌なめずりをしているような不気味な音だ。
それは、本当にいるのだった。
闇に潜む怪物たちにとっては願ってもない餌が自分から迷い込んできたのだ。
なんの力もない幼い少女。
もし、昨日のアウラであったらその通りであったのだが……
最初に飛びかかったゴブリンは、本人も気がつかないまま白目を向いて倒れることになった。
アウラが無意識に放つ聖なる光に魔物はその精力を削がれ、瞬く間に気を失ってしまうのだった。
次に飛びかかってきたゴブリンやコボルトも同じ目にあった。
オークや、オーガでもまるで相手にならなかった。
いつの間にかアウラの周りには魔物が近寄らないようになっていた。
彼女は、なんの恐怖も感じずに、ぼんやりとした夢ごごちの心持ちのまま、森の奥へ奥へと歩いた。
声が迷路のように入り組んだ森の中を案内した。
そして、まるで永遠のような、あるいは一瞬のようなに感じられる、不思議な時の流れの後に……
大きな岩に聖なる斧がささる場所にでた。
普段は精霊が来るものを迷わせて決して到達できない場所であるそこで、アウラは勇者となったのだった。