第二聖女の不安
ヤータ聖教会の序列二位であるウネルマ。第二聖女と称され、多くの人から尊敬を集める女性であった。
霊力も知力にも非凡な才を持ち、きさくな正確ながら芯が強く正義感にあふれ、出自のタイバス公爵家という大貴族の後ろ盾もある。
当代の聖女がいなかったなら、第一の聖女間違い無しである女傑であった。
呼ばれて入った部屋で、そのウネルマを目の前にして、
「どうかしましたか?」
「いえ」
アウラは明らかに挙動不審であった。
「気分がすぐれないのでしょうか」
「そんなことは……」
「そうですか?」
おかしくないことはないだろう。
そう言いたげなウネルマの顔であった。
「あれ程の大業のあとですものね。心にポッカリと穴が空いてしまうのはしかたがないと思います」
「……」
ウネルマの質問に、はいかいいえで答えるのならば明らかに「はい」であったが、第二聖女相手に本心をそのまま言って良いもの少し迷いながらもかすかに頷くアウラ。
彼女は、小さいころから、勇者として育てられ、勇者として生きてきた。
すべては邪神を倒し人類を守るためだった。
それだけに人生をかけてきたし、それ以外の人生なんて考えることができなかった。
偉業が達成され、いったいこの後、何を目指して行けば良いのか全く思いつかないのは事実だった。
「過去何人もの勇者が後に身を持ち崩しています」
「……ええ」
ウネルマの懸念は良くわかっていた。
酒浸りになったり、色に溺れたり、ひたすらに豪奢を求め教会の財政を傾けたり……
勇者となった者の多くは、その後半世を碌な人生を送っていないのは有名な話であった、
でも、それは、むしろマシなほうで、
「それに、虚無感から、迷惑をかけるのが自分だけなら良いですが」
「我は……」
「ええ、違うと思います」
「……」
「勇者アウラは、虚無に身を任せたり、ましてや戦いに飢えて無意味に反逆をおこすような過去の勇者とは違うと思っております
「それは、もちろん……」
邪神という機器が去ったあとでも、教会を守ることが民のためなる、それが自分の果たすべきことにことにはなんの疑問ももっていないアウラであった。
「でも、そこが危ういのですよ」
「……?」
「私も、空気を読まないとか、理想論すぎるとかよく言われます。しかし、少なくとも罪のない無垢とは言い難い、現実の汚さもたくさん知っています」
「……」
権謀術数の塊のような現聖女に比べれば、正義にこだわりすぎて建前を気にしなすぎると言われる第二聖女ウネルマであった。
しかし、それは、幼き頃から貴族社会と教会の暗部を散々見たうえでのことであった。
彼女は、生半可な気持ちや安っぽい正義感からそんな行動を取っているわけではない。
「あなたには絶えられないと思っています。現実の汚さを見ることが……」
「そんなことは……」
「ないかもしれませんが……言ったではないですか」
「?」
「危ういのですよ」
と、ウネルマは本当に心配そうな目をしながら言うのであった。