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伯爵のメイドの助言

 ブオリ伯爵の居城。そのなかでも迎賓のために作られた一角が、最恵客であるアウラに用意された部屋のある場所である。第二聖女から呼ばれ、最高の眺め、最高の調度品、家具の置かれた室内から廊下に出ても、その様子は変わらない。


 むしろ、伯爵の力をみせつけるかのように、くどいくらいの絢爛豪華であった。


 歴史に名を残す名画の数々、一つ一つが城そのものと同じ価値をもちうやもしれぬ古代の彫刻や壺。緻密な模様が織られたフカフカの絨毯や優雅に垂れ下がるタペストリー。壁や手すりにも、金銀だけでなく宝石魔石の類が散りばめられ、光の精霊により発せられた清涼な光により反射して、まるで夢のような光景を作り出す。


 アウラは結構な豊かな家に生まれているのであるが、有力な伯爵家ともなると桁違いを思い知らされるのであった。


「……というか、うっかり壊してしまったらどうなるのか」


 高そうな壺の横を通るのに緊張感満点となって、足取りが少しおかしいアウラであった。


 すると、


「どうかいたしましたでしょうか?」


「いや……」


 案内してくれるメイドに不思議そうな顔で見られている。

 あせる。


「気にしないでくださいませ……勇者様に壊された壺ならばむしろ価値が上がりますから」


「……あ」


 どうも、豪華な廊下にビビっているのがバレてしまっているようである。

 とはいえ、実際に、勇者がビビる必要などないのだ。

 今、救世の英雄であるアウラを非難できる者など、この大陸には存在しない。

 なんならわざとこの廊下をめちゃくちゃにしたところで、伯爵は何の苦情も言わないだろう。

 

 勇者は、邪神により荒らされた世界の復興の象徴。

 民の希望なのだ。

 その偶像は何があっても壊すわけにはいかない。


 アウラはドンと構えて、威厳を持って歩くだけでよいのだ。

 それが一番求められていることで……結果、ブオリ伯爵の至宝の一つや二つがどうなったtところで何にも問題ない。

 のであるが、


「でも、お気になるのですね」


「……」


 躊躇しながらも首肯するアウラ。

 もちろん彼女は自分の立場はわきまえている。

 何をしても良い。勝手気ままに、傍若無人に振る舞って良いとは言わないが、周りに気を使ってせせこましく生きることは望まれていない。しかし、それがどうにもできないのが当代の勇者様であった。


「勇者様はお噂通りでございますね……皆に気を使い、自分よりも仲間を大事にして……個人的には大変好ましく思いますが」


「?」


 メイドは、立ち止まると、小声で耳打ちする。

 

「……嘘に惑わされぬようにしなさいませ」


 ——?


 なんのことやら、メイドの言葉にピンとこないアウラである。


 いや、勇者としてもっとしゃんとしないといけないとは彼女自身重々承知であるのだが、


「味方と敵をしっかり見極めるようお願いします」


 メイドはそういうとそれ以上は何も言わずに歩き始めるのであった。

 

「え……」


 どういう意味なのか問いただしたいところであったが、


「アウラ殿!」


 彼女を呼ぶ元気はつらつな声。


「ウネルマ様……と……」


 廊下の突き当りの部屋の前、手をふる第二聖女。

 横にロータス。

 そして、その後ろには、相変わらず憮然とした表情で立つイクス——勇者アウラの想い人なのであった。


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