復活した男
草の上に倒れていた男は、目が覚めて慌てて立ち上がり、周りを何回か見渡した後、
「……何が起きたのでしょうか?」
ぽかんとした表情をしながら言った。
「……こっちがそれを聞きたかったんだけど」
「無理そうですね」
「はい?」
どうやら男は何が起こったのかに気づく前に意識を失ってしまい、自分がアメーバのようになっていた時のこともまるで覚えていないようだ。
それは男にとっては幸せな話であるが、
「なんか汗びっしょりだな君」
フェムが男に向かって言う。
「え?」
自分の服がびしょ濡れになっていたのに気づいた瞬間、
「あれ……」
足から急にちからが抜けた男は、そのまま前のめりに地面にたおれそうになる。
「ちょっと、危ないですよ」
さっと男を抱きかかえるサクア。
よく見ると随分と若い初心そうな男は、顔を真赤にしながら、
「すみませんなんだか急に気が遠くなって……」
あわてて体を離そうとするが、
「まだふらついてますよ、いいからそのままにしてなさい」
「あ、はい……」
美女に体押し付けてもらって、正直良い気分であったので男はそのままでも良いかと思う。
なかいい匂いだし……
と思っていたら、
「君、名前は?」
「え……」
すでに夢見心地だった男は、フェムの質問に一拍遅れて返事をする。
「……ヴィンといいます」
「なるほどヴィン君ね……なんか随分怖い目にあったみたいだね」
「そう言われてみれば……なんか……」
また足の力が抜けそうになるヴィンであるが、
「ふむ、ふむ……怖かったみたいですね」
頭をギュッと胸に押し当てて支えながらサクアが言う。
「……突然空が紫色に変わり、そこから妖気が舞い降りて……ここで記憶が途切れるですか……最後に見たのは、あ、やっぱりサラマンダーっぽいですね……」
「なんでそれを」
「良いから、良いから」
今、心の中で思った光景をそのまま語られてびっくりしてしまうヴィンであったが、
「さすがセリナの未来視はすごいね……この子で当たりだ」
フェムが感心した顔で言った。
「陰キャさんの指定通りの場所に来たら手がかりが掴めそうです」
サクアも首肯をしながら言った。
「……そもそもセリナが万全だったら過去に戻ってその瞬間見てもらうところだけど」
「それは言っちゃいけないですよ」
「……?」
なんだか良くわからないことを話している二人である。
ヴィンの方は、一瞬前まで、そんなことを気にしている余裕がなっかったが、
「あの……さすがにもう大丈夫です」
名残惜しくないといえば嘘になるが、胸から顔を離しながら言う。
サクアの抱擁がよっぽど効果があったのか、足元もしっかりして、むしろ元気が良いようにさえ見える。
「お二人は何者なんでしょうか……いえ、失礼な言い方ですみません」
「何者……と言われても」
「ただの旅の者じゃ駄目ですか?」
「……」
駄目ですかと言われても、駄目だろという顔のヴィンであった。