サトレイの企み
悪魔の呪いにより石像に鳴ったと言われている勇者サトレイ。
それは彼が意図的に残した嘘だった。
呪いなどはなく、自らが自らにかけた術であった。
石像と化して眠りにつき、城の魔物を倒して彼ののところまで到達した者を倒す。
彼の到達した地力の秘密を知った者でなければ、彼の仕掛けた魔物を突破することはできない。
ならば、その者を経とすことで秘密——禁忌を知った者を葬ることができる。
きっと、次に地力を操る者は、勇者サトレイの子孫となるだろう。
自らの血の中に、地力を暴走させる因子を感じ取った彼は、子孫にむしろ逆の、繊細な力の制御を相伝した。
そうすれば、秘密に気づくのが少しでも遅れるだろうと……
しかし、いつかは、きっとそんな者が現れると思っていた。
何かきっかけがあれば、きっと血の奥に眠る因子が動き出すだろう。
子供の頃、ガルパネンの配下の悪魔に襲われ、勇者として覚醒したサトレイと同じように。
ならば、それがおきるのはここであった方が良い。
どこかあずかり知らぬところで、地力を暴走させられるよりも、覚醒するのはこの古城であったほうが良い。
サトレイの操る魔物はそのために用意されたのだった。
魔物を突破して彼の元まで来た者が現れる時、それが彼が目覚める時であったのだった。
ヘンリのように。ガルパネンと相対し、覚醒した御曹司は、そのあと城の奥まで進むことができた。ローゼという、規格外が紛れ込んでいたのは想定外だろうが、サトレイの魔物は、想定された役割をしっかりと果たしたのだった。
ヘンリという危険人物を洗い出すという!
「……勇者サトレイが、その後に現世で得られたであろう、とてつもない栄誉を捨ててまで、眠りに入った理由が私ですか」
「お前でなくても、誰でも……ここに来るものは俺が殺す」
「今後も全てですか」
「私の眠りを妨げたものは……」
「この城から帰さないですか」
ヘンリはローゼのことをちらりと見る。
「……いかにご先祖さまでも、全員は難しいのではと思いますが」
「誰であっても帰さぬ」
「……気持ちはわかりました。しかし、なぜそこまでこの秘密を恐れるのですか」
「お前にはまだ分からぬ」
「確かに、地力の秘密について私はほんの触りにたどりついただけなのだと思いますが……ついこの間邪神と竜のキメラにより人類は大きなピンチとなりました。この力があったならば……」
「更に酷いことになる」
「それはわかりませんが……」
「ともかく、俺にこれ以上話し合う気はない。お前にはこの場で消えてもらう。可愛そうだが、この場の全ての者も……」
サトレイは、ヘンリの他にセラフィーナとローズ、セリナを見る。
ローズとセリナはサトレイのことなど何も気にしてないふうであるが、
「ふむ」
伝説の勇者サトレイの圧倒的な迫力を前にしても、ブルブル震えbながらも、臆することなく、ヘンリへの信頼に満ちた表情で立つセラフィーナ。
「あいつと同じだな」
自分が勇者として戦いに出る前の日の伴侶の表情を思い出してつぶやくサトレイ。
「良い女と巡り合ったようだが……」
「いえ、私は諦めませんよ。相手があのサトレイでも」
そして、これ以上の言葉は不要とばかりに、黙り、睨み合う二人。
構えは気力と地力に満ちて、臨界点に達して……