呪いの真実
「呪いが解けたのですか……」
ヘンリが驚愕の表情になる。
悪魔ガルパネンの呪いにより石像となっていたサトレイが、往時の美丈夫の姿で、今、目の前にいるのだった。
「答える義務はない」
その伝説の勇者は、彼の子孫のヘンリに会えたことに喜んだ様子はなく、冷たい口調で話す。
「なるほど、答えられないと」
ヘンリが少し挑発的な口調で言う。
「……義務はない!」
指摘をごまかすかのように、サトレイが斧を振るう。
ヘンリが今度は押し負ける。
「動きが良くなりましたね。当たり前か……枷が取れたんだですからね。呪いという枷が……ですが……」
「……!」
石像から人間の姿に戻ったサトレイの攻撃は先程までとは見違えるような素早さであった。
彼本来の動きのしなやかさ、多彩さも取り戻し、その斧は変幻自在にヘンリを襲った。
しかし、
「ご先祖様の枷って、本当に呪いなんですかね」
ヘンリも、それに合わせて攻撃を強める。
彼は、地力だけでなく、サトレイの秘密にも気づいたようだ。
「……知らぬ」
サトレイは驚いたような顔をしながら言う。
ヘンリが、完全な勇者の姿に戻った彼に対抗できているのに戸惑っているようだ。
ちょっと前まで押され気味だったとはいえ、石像から生身に戻ったサトレイのスピードは倍増している。それに難なく対応しているヘンリ。
それどころか、
「私が、ここまでやれてびっくりしてますか」
再び、押し気味となるヘンリ。
「……」
無言となるサトレイ。
「わかったんです。あなたが残したものの真実が……」
「……」
相変わらず無言で、数歩下がりながらも、なんとかヘンリの剣を裁いているサトレイ。
「勇者サトレイを始祖とする我が家にはずっと言い伝えられたことがあります。いつか、我が家の者が、あなたの無念をはらすのだと。勇者サトレイは、悪魔ガルパネンの呪いに操られ、心を犯されて、廃城の魔物の主となってしまっている」
「……」
「その境遇から助け出すことが、何を置いてでも達成しないといけない我が家の悲願であると……そのために我が家は、あなたが残したと言われる地力の精密な制御の技術を研ぎ澄まし続けました」
「無駄なことを……」
「させたのですねあなたは」
「……」
「呪いを解くには白の奥に石造となって眠るあなたを倒さねばならないと伝えられてきました。我々は、先祖代々、勇者サトレイの無念をはらすこと、あなたを倒すことを夢見て鍛錬を続けてきました。あなたの残した間違った方法で……」
「……」
「我々は大きく遠回りしていました。これまで、誰一人、勇者サトレイどころか、その周りの魔物を突破することもできなかったのです。しかし、あなたは、警戒したのではないですか? 自分の子孫に、自分と同じ力を持つものが出ることを警戒した? 違いますか?」
否定も肯定もしていないような曖昧な表情をするサトレイ。
「もし、あなたの域まで到達した子孫が現れたら……呪いを解くためにこの城に、そして石造となったあなたのいるこの間までやってくるだろう」
「……」
「いや、地力の秘密に気づいていなくても、魔物たちを退けてこの場所まで来るような力を持ってしまった者は……」
言葉を一度切ったヘンリは、一段と鋭い剣戟をはなち、
「——!」
その一撃に膝をつくサトレイに向かって、
「ここで待ち構えていたあなたが、排除するということですね。それがサトレイの呪いという伝承のの本当の目的だったのです」
と言うのだった。