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ヘンリの猛攻

 サトレイ。この地に過去に何人か現れた勇者の中で、最も有名な勇者であった。

 グリュ=ガルパネンによる人類の危機に突然現れ、戦いの終了とともに世の中から消えてしまった。彼の子をなしたソフィア——ヘンリの先祖——がサトレイについて多くを語らなかったこともあり、その真実があまり知られっていいない男であった。


 しかし、秘密が多い、つまり想像の余地がお大きいことで様々な物語が作られたことで、すべての英雄譚の祖と言われるくらい、むしろいちばん有名な英雄となっていたのだった。

 それらの物語は千差万別であり、悲劇から喜劇まで、猫からしゃくしまで、考えられるバリエーションは全て語られ尽くしたといった感じであった。


 つまり、人々は、それぞれがそれぞれのサトレイ像を持つことができるようになったのだった。

 もちろん大抵の人にとって、彼は理想の英雄であったが、それにしても、個々の好みによって、彼は勇猛だったり、繊細だったり、禁欲的だったり好色だったり。

 伝承によっては、実は女性とされることさえあった……


 ともかく、このような伝説の奔流の中に飲み込まれて、サトレイの真実はさっぱり分からなくなってしまっていたのだった。


「ご先祖様とは、腹を割って話をしたいところです」


 何かが吹っ切れたかのように、一気に剣の勢いを増しながら、ヘンリが言った。


「何を考え、何に悩み、何を捨てて、何を選んだのか」


 猛攻を受け、後ろにさがりながらも、サトレイは余裕を持って攻撃を受ける。


「……過ぎた力を得てしまったが、あなたは残さないことに決めた。その力が必要な敵がいることを身をもってわかっていたと思いますが。なぜ……」


「——」


 問いかけにも、サトレイは何も反応せずに、淡々と剣をさばいていく。

 しかし、先程までの勢いはなく、押し返すことはできない。


「つい最近も、世界は邪竜により滅ぼされかけました。この力が伝えられていたら、あんな敵なんて簡単に倒すことができただろうと思いますが。そんなことは勇者サトレイにはわかりきったことだったと思います」


 ついには、いつのまにか、ヘンリのほうが優勢になっていた。

 ひと太刀、ふた太刀、サトレイが危うく切られかける場面が増えてきた。


「なら……それ以上の危険と思ったということですよね。地力(マナ)の秘密を残すと、人類滅亡以上の危機が訪れると」


 サトレイがバランスを崩して地面に転がった。

 すぐに起き上がるが、そこに更にヘンリの鋭い剣戟。

 かろうじて避け、そのまま大きく後ろに下がるサトレイ。

 そして、


「! ご先祖様……」


 ヘンリが、びっくりして絶句したのは、


「君が我が子孫か。我以外にここまで地力の秘密にたどり着くとは、なんとも素晴らしく……しかし危険な男だ」


 石化が溶けて、往時の美丈夫の姿で眼の前に立つサトレイを見て……


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