サトレイの秘密
ヘンリが苦悶の表情となる。
どうやら、サトレイの力が少し勢いが上回っているようだ。
上段から押し込まれた斧にヘンリの剣は少しずつ下がっていく。
この差は何なのか。
新旧の勇者は同じ力を開放しているはずだった。
サトレイが到達したが秘匿した禁忌の力。
地力以上の力を地力で得る方法。
禁忌の力だった。
この星を滅亡させかねないものだった。
暗黒から直接力を得て(?)いた邪竜とは別のやり方のようだが、同じように危険なであった。
それは地力で地力以上の力を得るという一見矛盾したやりかたを習得していた。実は、ローゼたちがこの星で追い求めている物に関連するのであるが、それを語るのは後ほどとして……
今は、なぜ同じ秘密に到達したはずのヘンリが押し負けているのかだが、
『御曹司のほうはまだ迷いがあるのじゃ』
「しょう……がない。身に余る力を得たときは……それをいきなり使いこなすのは難しい』
『その力にビビってしまうか、溺れてしまうか、どちらかになってしまうからの』
『気持ちだけ……はどうしようもない』
ヘンリも決して弱気になっていたりするわけではない。
勇者を先祖とした勇武の家風に育てられた彼は、命おしさに萎縮してしまうようなことはない。
そのように育てられている。
しかし、むやみに命を投げ出せと言われているわけではないし、勇者サトレイが残した偽情報に基づいて、地力の洗練した利用の技を磨いていたのである。
どうしても、これ以上は過剰なのではないか?
制御が効かなくなるのでは?
そんなことを思ってしまう。
すると——
無意識にでも自分に制限をかけている者と、限界など考えずに力をふるう者。
その差は徐々に開いていく。
ヘンリには、もう一度覚醒が必要だった。
それであれば、彼の家計の始祖となる勇者サトレイに比べ彼の力が劣っているわけではない。
きっと。
きっかけさえあれば。
それは、
「ヘンリ!」
セラフィーナが叫んだ。
「……!」
サトレイの動きが一瞬止まる。
ヘンリの剣が少し力を増したようだった。
「頑張れ!」
ヘンリが嬉しそうに顔に笑みを浮かべるが……
なんか石像になって無表情なサトレイも、少し嬉しそうに見えた。自分の子孫が、守るものを得て、その力を増しているのを喜んでいるのではないかと思われた。
守る者がいる。
そのために、限界を突破する。
サトレイもかつて、経験したことだ。
しかし、それだけではだめだ。
なので、彼は自らの到達した秘密を封じた。
子孫にも継がなかったし、自分自身も悪魔ガルパネンと刺し違えて秘密とともに死ぬつもりだった。
しかし、自分の力が悪魔以上に危険だったことを知り、
「ご先祖さまは、あえて自らを封じたのですよね」
それがヘンリの到達した答えであった。