ヘンリの感謝
「? 大丈夫でしょうか……」
歓喜に震えすぎて、苦痛に悶えてるみたいな顔になっているセラフィーナを残して、ローゼとヘンリは話す部屋を変えるため廊下を歩いている。
まだ寝ている(ふりをしている)彼女を起こしては可哀想と思ったヘンリの提案であるが、なんか頬を赤くして恥ずかしそうなヘンリだがm
「セラフィーナ……」
思わず名前が声に出てしまうようだ。
もうメロメロな御曹司であった。
まったく……
なんでセラフィーナなんかに、あっさりひっかかるのかなとローゼは思う。
今さっきまでの、冷静というか、すこし冷徹といってよいほどに政情を語る理知的なヘンリなら、合理的に考えたら、問題貴族の札付きの問題娘なんて選ばないだろうと思う。
まあ、そんなことをあえて口に出すことはないくらいの遠慮もローゼにもあるのだが……
いや、実は、
——まあ、ありだな。
この二人、意外と悪くないなと思ってるローゼだった。
伯爵家の跡取りで品行方正で完璧超人のヘンリと、悪徳貴族の一族でも問題児となっているセラフィーナ。それだけ聞いたら、相性が悪そうな二人だ。
だが、なんとなく足りないところをお互い補い合っているというか、根本的なところでは譲れない信念が似ているというか、
「二人……はこの星……の希望」
突然、ローゼとヘンリが立ち止まっていた横の扉が開いて、
「ローゼお……はよう」
ローゼの心の声にツッコミを入れてきたのは、
「おう、セリナ」
「セリナ様おはようございます」
時の魔女セリナであった。
ヘンリは彼女を見るなり言いながら、
「昨夜は本当にありがとうございました」
心を込めて深く頭をさげるのだった。
それは、どんなに感謝してもしきれないといったふうだった。
いったい、セリナ——陰鬱の時の魔女——が何をしたのだろうかだが、
「おかげでご先祖様——勇者サトレイと最後にじっくりと話すことができました」
とのこと。
それは。昨夜ヘンリがサトレイと剣と斧を打ち合って、古城が大きな光に包まれた時に遡る。
新旧の勇者の力がぶつかり合い生じた大きなエネルギーが光にかわり、その力は空間を揺るがし、古城の壁はどんどんと崩れだしていた。
二人の力は拮抗しているように見えた。
どちらかが少し押し込むと、相手が反撃した、
押しては返す。
返しては押す。
戦いはこのまま決着がつかない……
いや、決着が付く前に古城が崩れ、生き埋めになってしまうのではと思われた。
ヘンリがわずかに優勢のように見えるが、その差が出る前に、古城が耐えられないのではと思えた。
しかし、そんな時に現れたのがセリナであった。
グリュ=ガルパネンの戦いが終わり、ローゼとセリナがヘンリたちに合流。
『時を……と……める』
セリナが言うやいなや古城の崩壊は止まる。
「す……来なだけやればよい』
グリュ=ガルパネンの時とおなじであった、
時間を止めて、物理法則が動くのを止め、周りへの被害を止める。
動いているのはサトレイとヘンリ、もちろんローゼとセリナ。
『この娘に……も……見せてあげたい』
『ん?』
セラフィーナの時間も動き出す。
新旧勇者の戦いは続く。
相変わらずの拮抗状態だが、少しサトレイのほうが押しているように見えて……




