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洞窟の中

 そしてしばらく時間がたって……


 爆心地から十数キロは離れたある丘の中腹の洞窟。

 そこにいるのはヴィンとサクア、フェム。そして、未だ、ずっと眠り続ける暗殺者の女であった。

 どうやら、他に追跡者はいないようであるが、流石に暗殺者が襲ってきた場所にそのままいるのはまずいだろうと移動した一行であった。


 あれだけの爆発だ。

 ヴィンを追いかけていたのは暗殺者だけだったにしても、位置がバレてしまうだろう。

 さっさと場所を変えて、三人と暗殺者は暗闇に潜むのであった。


 これで、少なくとも今晩のうちは安全であると思えた。

 あえて、魔物がいっぱいの夜の森に入ってくる者もいないだろうから。

 安全な洞穴を見つけ、とりあえずは落ち着くのであった。


 いや、安全というか、洞窟の主の魔物を討伐して、無理やり安全にしたのだが……


「ふむ、なかなか美味ですね」

「コカトリスはどこの場所(ほし)でも美味しいけど、これは格別だね……地力(マナ)の「質が良いな」

「……」


 洞窟に潜んでいたのは、巨大な、伝説級のコカトリスであった。

 三人(+暗殺者)が入り口に入るなり現れた魔物に、睨まれるより先に石になってしまいそうなヴィンであったが。

 サクアが睨んだだけで逆に固まったコカトリスにフェムがワンパンで終わりである。


 そして、今、眼の前でグツグツと煮えている。

 サクアが空中に手を突っ込んで取り出した、鍋に、ネギと舞茸にみりん醤油で和風味であった。


「ヴィンくんもどうですか」

「遠慮せずに食べなよ」

「……あ、はい」


 コカトリスなんて、一生に食べられることがあるかどうかわからない超超超高級食材である。

 もし冒険依頼が来て討伐しても、自分で食べるなんてことは考えられない。

 肉が即ち金塊と同じ価値を持つ魔物であった。

 こんな上物を持ち帰ったら一生遊んで暮らせるどころか、子孫代々がずっと遊んで暮らせるくらいの富を得るところだが、


「美味しい……」


 まあ、料理してしまったものはしょうがない。

 滋養強壮がエリクサークラスと言われる食材であった。

 一口食べると、体の中にモクモクと雲が湧くように活力に満ちるヴィンであった。


「すっかり、元気になったようですね」

「あれでよく生き残ったよね」


「はい……」


 とは言ったものの、正直良く覚えていないヴィンであった。

 

 暗殺者が捨て身の自爆攻撃を仕掛けてきたのは覚えていた。

 そこで、逃げるよりも先に体が動いていた。

 避けるのではなく、その胸のペンダントをちぎり、遠くに投げ飛ばそうとしたのだ。

 女はびっくりしたような顔をしていた。


 そんなことをしているうちに——暗殺者は体を回転させ、ナイフをヴィンの喉元に向かわせる。

 なぜ? この男がこんな隙だらけの行動をする?

 女は頭の中が疑問でいっぱいになりながらも、何度も仕込まれ、条件反射となってる体の動きは爆破の瞬間にも、ヴィンの頸動脈を引き裂こうとする。


 ペンダントは数メートル先の空中に浮かんでいた。

 ああ、もうちょっと遠くに飛べせていればと思っているうちに……


 爆発。


 記憶がしばらく飛んで、爆心地の真ん中で、傷ついた女を抱えて立つヴィンであった。


「勇者の力だけでは説明できないよね」

「粉々になっていてもおかしくなかった……こっちの人も……」


 フェムがちらりと、暗殺者の女を見る。


「まあ、粉々になってもロータスのくれた秘薬ならなんとかなりますけどね」

「体ならね……」


 横たわる女は、かすかな寝息を立てている。

 体なら、たとえ粉々になってもなんとかなる秘薬でも、なんともならない傷が刻まれているのは……


「魔族との戦争を回避するためとはいえ、この人は、なぜここまでするのでしょうか」


 ヴィンがぼそっとつぶやく。


「それはですね……」

「あっ」


「……うう」


 サクアが話そうとした瞬間、横たわる暗殺者の女の意識が戻ったのでああった。


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