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爆発の後

 ヴィンの戦いの場となった森は、突然、凄まじい爆炎に包まれた。

 暗殺者が、防御など何も考えないまま、捨て身で突進して胸のペンダントが光った後に、最初に辺り一帯を包み込むような炎が上がったのだった。ペンダントが、爆発を起こす魔器(アーティファクト)であったようだ。

 爆発の作り出した突風に木々はなぎ倒され、舞い上がった土煙は夜空の月に照らされた雲にまで達するのでは無いかというほどであった。


 これ程の爆発ならば、その中心にいた二人は粉微塵になってしまっているのではと思われたが。


「あれは、ヴィンさん?」

「まあ、そうだよね」


 あたりを覆っていた粉塵が収まると、まるで隕石でも落ちたかのようなクレータのちからなくぶらs心にはヴィンが立っていたのだった。


 その手に抱かれているのは、先程まで彼と激しい戦いを繰り広げていた暗殺者だった。

 ピッチリとしたボディスーツはボロボロに破け、傷だらけの肌を露出させていた。

 手足はだらんと力なくぶら下がり、意識は無い。いやこれはもう……


「大丈夫ですか」

「ヴィンくん、怪我はない?」


 サクアとフェムが、ヴィンに駆け寄って言う。


「僕は……」


 大丈夫なようだった。

 服はだいぶボロボロになっているし、顔にはかすり傷もいっぱいあるようだが、特に命に別状があるような様子ではない。

 しかし、


「これはひどいですね」

「あらら……」


 ヴィンに抱えられた女の方は、


「生きてはいるようですが」

「これじゃ長くは……」


 暗殺者の体はボロボロだった。

 体中の骨が折れて内蔵に突き刺さっているのか、口から血を吐き続けていた。

 動脈が切れているのか、大きく裂けた体から血が流れ続けていた。

 もうすでに死んでいてもおかしくない……というか生きているのが不思議だった。


「回復の術のせいだね」

「すぐに死なせてくれなくて……命が続いてしまうんだ」


 どす黒い紫の光が暗殺者を包んでいた。

 寿命と引き換えに怪我を修復するアーティファクト。

 大爆発にも耐えたらしいそれが、暗殺者の体を中途半端に回復させているのだった。


 死ぬ寸前まで、ひどく傷ついた体を、癒やしきれるわけではなく、苦しみの時間を長引かせているだけ。

 覚醒の秘術も効いているようで、意識を失うこともできずに、繰り返す苦痛に身を震わせる。


「……このままでは」


 ヴィンが思い詰めたような顔で言いながら、暗殺者をそっと地面に下ろし、剣を腰から抜く。


「おっと、ヴィンさん待ってください」

「早まっちゃだめだよ」


「?」


 振り下ろしかけた剣を止め、振り返るヴィン。


「どうもその女には、色々事情ありそうですから」

「生かして話を聞きたいんだよ」


 でも、どうやってという顔になるヴィン。


「任せてくださいよ」

「あたしたちの仲間にすごい聖女がいてね」


「いろんな意味ですごい聖女(ひと)ですが」

「うん、色々(・・)ね。でも……実力は確かでね、これ……」


 フェムが何もない空中に手を突っ込んで、小さな瓶を取り出す。


「そのドジっ子聖女——ロータスさんから預かっている秘薬です」

「女に飲ませてみなよ」


「……」


 形容するに、なんとなくやばめの単語が多い聖女により作成されたらしい秘薬。

 手にしたものの、飲ませるにはちょっと躊躇してしまうヴィン。

 とはいえ、暗殺者は、このままだと死んでしまうだけなので、


「飲ませてみます」


 ヴィンは膝を付き、女の上半身を支えると、その口に秘薬を注ぐのだったが、


「え!」


 瞬時に女の顔に生気が戻り、体中の傷が塞がって、折れた骨も繋がり、


「なぜ……死なせてくれない……」


 一瞬意識を取り戻した女は、そう言うとまた、すぐに意識を失うのであった。



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