呪われた大地
さて、ロータスとイクスが公爵の晩餐会に現れた頃、ちょうど夜明けを迎えた別の大陸のに立つのは、
「こりゃ酷いもんだね」
「まったくです。ローゼ様に来てもらわずに正解でした」
妖精フェムとメイドサクアであった。
二人は、周りを見渡し、ため息をつきながら言う。
「そりゃそうだね。ローゼがこんなめちゃくちゃなところに来たら、もうこの星の探索なんてめんどくさくなって、まるごと破壊するかもしれないね」
「正直、そうしてくれと言いたいところですねこれ……」
別の大陸。
この星には大陸と呼べるような大地は4つあるのだが、極地にあり全土が凍りついたものと、殆どが砂漠のためほとんど生き物もいない2つを除くと、人が住み文明が興きた大陸は残り2つとなる。
フェムとサクアが今いるのは、その二つのうちの一つ。勇者と邪竜が戦っていた大陸とは別の大陸なのであった。
ここともう一つの大陸の間に人の行き来はない。
かつて、古き神々が統治していた時代には行き来のあったと言われる大陸同士であるが、今はまったく相互に交流はなくなっていた。
もう何千年も前に別れてしまった文明はそれぞれ別々に発展……というよりは退化して、海を超える術などは永遠に得られることは無いとおもわれていたのだが……
「これやったのは何者なんだろ」
「単に焼き払っただけじゃないですよね……呪いがかかってますよね」
「この大陸の誰かがやったのかな」
「可能性がないとは言いませんが、続けて地を焼き払おうと邪竜があっちの大陸にも現れたことを考えると、同じ連中がやったのではと思えますね」
「勇者たちが戦ってた邪竜も大地を焼こうとしてたから、偶然にしてはできすぎだよね」
「そうですね。大地を焼き尽くしたいのがなんでなのかはさっぱりわかりませんが」
「誰か黒幕いるよね」
「ええ、もう少しでローゼ様がその尻尾つかみそうですが」
焼け野原となっている大地。
いったい何者がこんなことをしようとしたのかわらかないが、今ローゼが追っているアウグスの一派に属するものの仕業であるのは間違いないとフェムとサクアも確信を深めるのであった。
しかし、それにしても、ひどい大地の状況であった。
「たぶん失敗しちゃったんじゃないかなこれ」
「ええ……サラマンダーに悪霊あたりを憑依させて……」
「生命と地力を灼熱で焼き尽くして、その分解エネルギーで何かをしようとしたのかな」
焼け焦げた大地に落ちる燃えカスの間に、アメーバ状の物質が蠢いているのが見えた。
どす黒い表面に不気味な虹色のを浮かばせて、地をうねうねと這い回っている。
「この地の住民だった者たちなのかな」
「……」
人の形に盛り上がって威嚇するように波打ってる巨大アメーバのような物体を見ながらフェムとサクアは無言になる。
この地を焼き尽くした者が何をしようとしたのかは不明だが、地は呪われ、不気味な物質に覆われてしまっていた。
生命と地力が溶け合って一体となり、呪いにつきうごされて地表を流れるように動く。
その物体に明確な意志のようなものは残っていないと思われるが、細かく震えることで空気が揺れて出る、ブーンという音がまるで悲鳴のように聞こえる。
「……さっさと済ましちゃおうか」
「そうですね」
嘆息をしながら妖精——フェムは懐からキラキラと輝く宝石を取り出す。
握りこぶしほどもあるダイヤモンドであるそれは、
「浄化!」
メイド——サクアの詠唱とともに光を増し、その光の広がるにつれて大地を浄化していく。
ロータスが二人に託した、彼女の霊力を封じ込めた聖なる宝石であった。
あっという間に地平線の彼方まで広がる浄化に、元の清浄な草原が復活し始める。
「……不幸中の幸いで、先に呪いを受けた生物は焼かれずにすんだみたいだね」
所々に焼け焦げた地面が残るが、大部分の自然はそのまま回復してきているようだ。
今回の大災厄を仕掛けた何者かは多分すべてを焼き払いたかったのに、呪いにより変質してしまった生命と地力を焼き尽くすことができなかった……
なので別の大陸で邪竜をつかって再度同じことを試みたのではないか。
「……まあ誰がこんなことをしたのか、真実が何かはローゼに任せるとして、あたしらはあたしらの役目果たそうか」
「そうですね……あ、ほら……」
サクアが指差すその場所には、
「あの人にまずは聞いてみようか」
呪いが解けて人間の姿を取り戻した男が倒れていたのだった。
フェムとサクアは男の横にしゃがみ、
「ちょっと君」
「目は覚めましたか?」
体をゆすりながら話しかけるのであった。