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暗殺者の女

 ヴィンに襲いかかってきた暗殺者はどうやら女性のようだった。

 伸縮性のある生地に、ピッチリと張り付いた体のなまめかしい曲線。

 成長しきっていないようにみえるそれは、まだ十代半ばの少女のように見えた。。


 しかし、その攻撃は、とてもか細い女性の繰り出すもののようには思えなかった。

 女は、一度下がった後、すぐに間合いを詰めると、地球のブラジルの格闘技カポエラのように回転し、四肢すべてにつけたナイフでヴィンを切り裂こうとしてくる。


 その速さはとても人間業とは思えなかった。

 ヴィンも気づけば防戦一方。

 ギリギリで避けれてはいるが、時々服が少し切り裂かれてしまう。


 至近距離からナイフを投げられ、危うく交わすとすぐに横転して喉元を足で狙われる。


 ヴィンは、下がり、少し間合いを取った。

 彼も、暗殺者が油断できない強者であることを認識したのだった。


 なぜこんな攻撃ができるのか。

 暗殺者として鍛えられていたとしても、その少女の体型からしたら、筋力量には限界がある。

 ヴィンは、ナイフを受けた剣に、昼に戦ったダギ以上の力を感じ、不思議に思った。


 いや、その理由にはすぐに気づいた。

 加速のアーティファクトをつかっているのだった。


 手足を始めとして、体じゅうにつけた魔石が、意思に反応して魔力を放出することで彼女の動きに加速を加える。精密な制御が可能な小型ロケットを付けているようなものだ。その推進力で得たエネルギーを剣に載せて相手にぶつけるのだった。

 またナイフも、精霊術により、振り下ろされた瞬間だけ重く、固くなるようにしこまれている

なんともチートな装備である。


 とはいえ、こういう装備を使う相手と今までヴィンガ戦ったことがなかったわけではない。

 彼は、剣士としての武者修行中には、こんなもんじゃないいろんな相手と戦っていた。

 今の問題は、なぜそんなもの(・・・・・)を、使い続けられるのかだった。


 単純にバランスを取るだけでも大変だというのもある。

 直線的に、一回腕や足を加速するだけならまだ良い。

 ここぞという時に、アーティファクトでスピードを乗せたナイフを突き刺す。

 そんな武器を使う奴は随分といた。

 しかし、この暗殺者は、全身の加速アーティファクトからの魔力をコントロールして、絶妙なバランスの元に、体を自由自在に動かしているのだ。

 こんなこと、普通の(・・・)精神にはとても耐えることができない。


 それに、いくら加速はアーティファクトがやってくれると言っても、その衝撃はそのまま暗殺者の、華奢な女性の体に跳ね返ってくるのだ。

 普通の、筋肉や、骨だったら……


「あれは、とても保たないですよね」

「うん、見て」

 何度目かの足蹴りをヴィンにかわされた、女の右足首がありえないほしなる。


「折れてもますよね」

「気にしてないようだけど……」


 ブランブランになった足をまるで気にしていないように、何度もバク転をしながらヴィンを後ろに下がらせる暗殺者。

 ヴィンが反撃の剣を突き出すと、そのまま大きく跳び上がって少し離れたところに着地する。

 暗殺者の体を紫に濁った光が包んだ。


「治療精霊術の宛ーティファクトも持っているんですね」

「あの光は相当たち悪いよ。命削ってる系だ」


 折れた足首もたちまち治癒しているようだが、その代償はどうやら暗殺者の寿命のようだ。


「長生きする気どころか、この戦いの後に生き残る気もないですよねあの人」

「体もそうだけど、精神も加速する秘薬を飲んでるよね。そうでないとあのスピードで動けない」


「体より、先に精神いかれてしまうかもしれないですね」

「この戦いの間はなんとか耐えても、終わったら廃人だよあれ」


 精神も薬で加速させているようだ。

 そんな無理は、当然心を壊す。

 暗殺者は、今回だけのために仕立てられた消耗品のようだった。


「だいたい、そばにいる私達のことをまったく気にしてないですね」

「任務が終わったあとのことを考えていないんですね」


「……しかし、その努力は認めますが」

「あそこまでして可哀想だけどね」


 確かに、いままで戦いを圧倒している暗殺者。

 暗殺に特化した訓練と装備を受けたらしき襲撃者は、一日前のヴィンであったならばあっさりと倒されていたかもしれない。

 だが、


「——!」


 ヴィンが、突きを体をひねって交わしたあと、暗殺者を背後から袈裟斬りにする。

 それを交わして逆立ちをしながら足のナイフで切りつけようとしたところに、ヴィンの追撃の剣が迫る。

 あわてて、足を広げ剣を避けながら前転して逃げる暗殺者。


 勇者に対して、暗殺者は分が悪いようだ。

 ヴィンは最初は戸惑っていたが、しだいに形勢を逆転していた。

 それでも、暗殺者はくるくると体を回転させながら何度も攻撃を試みるが、あっさり交わされ反撃される確率が高まってきていた。 


 ヴィンは、もう、暗殺者の攻撃を見切っているようだった。


「これはもう、無理かもしれませんね」

「暗殺者は最初の攻撃失敗すると、その後は難しいよね……ちゃんと相対して構えられたら」

 ヴィンが三連の突きを放つ。

 暗殺者は、体を捻ってなんとか剣を避けるが、その後に、更に突きを放たれそのまま後ろに下がって倒れる。


「……もうやめにしないですか」


 ヴィンは、起き上がる暗殺者に向かって、油断なく剣を構えながら言った。

 暗殺者は、完全にヴィンの間合いの中にいた、

 少しでも動いたら、その瞬間に自分が死ぬことがわかっている彼女は全く身動きもせずに固まったままで言った。


「できない」


 ヴィンがさらに問う。


「なぜ」


「変わらない」

「何が」


「私は……どちらにしろ死ぬ」


 暗殺者は、そう言った後に、すべての気力を集中させて体をヴィンに向かって突進させた。

 しかし、それは無防備で、ヴィンの剣などまるで眼中に無い。

 まるで、死ぬためにだけ突進しているかのようだが……


「危ないですよ」

「ヴィンくん、まずいよ」


「——!」


 振り下ろしかけた剣を止めたヴィンは、暗殺者の体を避け、そのまま後ろに下がろうとするが……


 その瞬間、あたりをすべて火炎の中に巻き込む大爆発が起きたのだった。


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