ヴィン野営中
ヴィンが盗賊団を壊滅させた後、サクアとフェムも含めた一行は、とりあえず砦の調査を行った後に、近くの森に身を潜め野宿をすることにした。別の大陸では朝を迎える頃、こちらの大陸では夕闇があたりを包む。
「……今晩攻めてくるでしょうか」
緊張した顔つきでヴィンが言う。
「どうですかね」
「こないんじゃない?」
「?」
「だって、あんなことできる相手に迂闊に攻め込んでこないですよね。脳みそ空っぽの盗賊団と違って、魔族たちはもっと慎重だと思うよ。なんたって……」
「ヴィンくんは、まだあんまり自覚ないと思うけど、君、相当やばい人になってるよ」
「……」
「勇者ですからね」
「うかつに攻めてきたら盗賊たちみたいに返り討ちにあっちゃうからね」
「そもそも、盗賊への攻撃どころか、魔族へ直接攻撃してしまっtますけどね」
「確かに、もう言い逃れは無理だよね」
「……」
誰のせいでこうなったんだと言うような微妙な顔となるヴィンであった。
とはいえ、バトルマニアの血が騒ぐのか、どこか嬉しそうではある。
どうやら、もっと強い敵が攻めてくるかもしれないのを喜んでるよこの男。
しかし、
「魔族より、気をつけないといけないのがありますよね」
「人間のほうだよね」
「?」
「だって、魔族と協力関係にあった盗賊団と敵対すると魔族と敵対することになるから、今まで本格的な討伐ができなかったんですよね」
「ヴィンくんがこの睨み合いのバランスを壊しちゃったんだよね」
「あ!」
「なら簡単なのは、原因を無くしちゃうことですよね」
「それでも相手の気持が納まるかわからないけど、ヴィンくんが勝手にやったこととにしてしまえば良いよね」
「ヴィンさんを殺して差し出せば、人間側に悪意ないことわかってもらえるかもしれないかもしれないですね」
「ならそういう奴がいつ現れてもおかしくないけれど」
と言いながらフェムが、さっとヴィンの後ろに目をやるが、
「——はっ!」
ヴィンは足元においてあった剣を取り、振り返り、振り下ろす。
空を切る剣。
「何者だ!」
ヴィンは、軽やかに飛び去った影に向かって言う。
「……」
「喋る訳はないか」
奇襲には失敗したが、このまま逃げる気は無いようで、影は立ち上がり間合いをせばめるように前に出てくる。
「手伝いましょうか」
「結構手練れのように見えるけど」
サクアとフェムが助けを申し出る。
「その娘は暗殺に特化した訓練を受けているようですね」
「やばそうなアーティファクトを何個か身につけてるし……なにより……」
しかし、
「はあああああ!」
「うぉおおお!」
「始まっちゃったね」
「これは、さすがのヴィンくんでもピンチかな……なにしろ」
なりゆきのまま戦いは始まってしまったようだ。
顔を仮面で隠してはいたが、細身の、明らかに女とわかる暗殺者。
しかし、その速さも、力強さも、ヴィンに劣るところはない。
そのうえ、
「あの娘は怖いですね……」
「なにしろ、生きて帰る気が無いようですから」
不気味に赤く光る、彼女の胸のペンダントを見ながらサクアとフェムは言うのであった。