古城の戦い——決着
——業を背負わせてくれ。
というヘンリの言葉の後、元勇者サトレイの斧が、明らかに焦った、性急な様子で振り下ろされた。
もちろん、いままでの攻撃をうまく捌いていた、ヘンリが、そんな雑な攻撃にやられるわけはない。
むしろ、攻撃の際にできた隙をとらえ、
「——!!!!」
今度は、後ろに吹っ飛んだのはサトレイの方だった。
かろうじて斧の柄でヘンリの剣を受けたが、バランスを崩したまま後ろに数回転。
「……どうですか。あなたが伝えてくれたやり方ではこうはいかないでしょう」
「……」
石像の顔が歪み、苦々しくも、どこかうれしそうな表情になったように見えた。
「いきますよ!」
またヘンリが剣を振り下ろした。
剣の周りには。その中に収まりきらなかっ地力が溢れ出し、輝き、まるで光の剣のようであった。
「——!」
しかし、今度はサトレイは斬撃をしっかりと受け止めて、
「……っ」
反撃の斧に耐えきれなくなったヘンリは数歩下がった。
「流石です……あなたが残したやり方とだいぶ違いますけどね」
「……」
それからの打ち合いはほぼ互角だった。
ヘンリが打ち込めばサトレイが打ちかえし、ヘンリが押し込めばサトレイが押しかえす。
どちらも休むことなく、攻撃をくりだして、一進一退を続ける。
どちらの攻撃も、全く手を抜かず、あたったならば相手を一刀両断するような、強く激しいものであったが、
「楽しいですね」
「……」
ヘンリはいつの間にか満面の笑顔になっていた。
石像であるサトレイの表情は、もちろん何も変わって見えないのだが、心なしかほころんでいるように見えた。
ますます激しくなる撃ち合いと比例するかのように、二人はの動きははつらつとして楽しそうな様子となる。
それは戦いというよりも、実量を認めあった者たちが、相互にその技を磨いているようにみえた。
長年の一族に相伝され研鑽にされて得られた、ヘンリの洗練された太刀筋にサトレイが感心したように頷くこともしばしばであったし、また、彼が子孫に隠した、本当の奥義を戦いの中でヘンリが吸収することも喜んでいる様子だった。
ヘンリの望みに対して——もう答えは出ていた。
サトレイは、自らと一緒に封じ込めようとした業を子孫にも背負わせようと決心したのだった。
ヘンリの望み通り。
自らと、同格の、それを託せる者と認めた子孫に対して、
「……」
少し離れた間合いで、無言で斧を頭上に上げて、
「……ご先祖様。では、これを僕の答えとします」
ヘンリは、剣だけではなく、体中に地力を、過剰にまとわせてサトレイに向かって中断に構えた。
言葉はかわさなくとも、二人はわかっていた。
次の撃ち合いこそが答えだと。
ヘンリがサトレイの思いを引き継げる者であるのか。
その引き継ぐものが何であるのか。
戦いの中でこそ語られるだろう。
両者の気合は十分。
地力が、離れた両者の間で混じり、雷に変わり、
「いきます!」
「……!」
深夜の古城は、その瞬間、とてつもなく大きな光に包まれたのであった。